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1~10話

芝生の上で【上】

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 バクバクとうるさい鼓動と、俯いていても伝わってしまそうなほど熱を持った頬。
 すぐに身体を離したのに、まだ抱きしめられた感触が残っている気がする。

 硬かった……。それに、温かかった。

 倒れかかった私を受けとめても、少しもぐらつかない逞しさ。自分の身体とは全然違う、ごつごつした筋肉の感触。鍛えているからか体温も高めで、きっと素肌に触れたらもっと……って違う違う!!

 じっと俯いているのも気まずくて、私は足元を見つめたまま板渡りのコースへと踏み出した。
 前々からちょっとやってみたいと思っていたことは内緒だ。

「んっ、……っと!」

 両腕を広げてバランスを取りつつ進む。

 これは思った以上に難しい。子どもの足には余裕のある板幅も大人の足にはギリギリで、少し踏み違えば落下してしまいそうな緊張感がある。

 いつしか照れ隠しで始めたことも忘れ、すっかり板渡りに熱中していた。



 凹凸のある最後の直線を抜けて板の終わりにたどり着く。しかしここはゴールではない。
 真のゴールは板の終わりから少し離れた位置に立つ、太めの杭のてっぺん。

 片足を引いて狙いすませ、えいっと勢いよく飛び移る。

「おわっと、と……っ!」

 ジャンプの反動でぐらぐらと前後に揺れながらも、どうにか片足でバランスを取ることに成功した。

「ゴーーール!」

 両手を挙げてゴール到達を喜んでいると、ふと、お腹の前に大きな手のひらが差し出されているのに気付いた。
 隣を見ればヨルグが私を囲うように両手を伸ばしている。

 どうやら先ほどと同様に、ふらつく私を受けとめようとしてくれたらしい。

「ふふっ、ありがとうございます」

「落ちなくてよかった。板渡り制覇おめでとう」

「えへへ、やりましたー!」

 ハイタッチを求めて両手を挙げたままヨルグのほうに向くと、何を勘違いしたのか両脇に手を添えて軽々と持ち上げられ、ふわりと地面に降ろされた。

「…………」

「もう少し園内を歩こうか」

「ふぇ!? はっ、はいっ!」

 あれ? 今、抱き上げられたような……!??
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