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1~10話

救助者の引き渡し【上】

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「こんにちは、ヨルグさん」

「あ、ああ……」

 入店したヨルグはドアの前に立ったまま、そわそわと落ち着きなくこちらをうかがっている。

 大きな身体で迷子のように不安そうにしている様子も可愛く思えてしまうけれど、別に意地悪をしたいわけではない。困っているヨルグを助けたくて手を貸したのだから。

 ――大丈夫、言い訳ならちゃんと考えてある。

 浮かび上がる情熱的な光景を必死に脳裏から追い出しつつ、私はなんでもない風を装って畳んだハンカチを差し出した。

「これ、ヨルグさんのですよね? お返ししますね」

「! あっ、ありがとう!! とても大事なものなんだ……!」

 勢いよくこちらに駆け寄ったヨルグは、繊細なガラス細工にでも触れるかのように慎重にハンカチを受け取った。
 両手で持ったハンカチを見つめ、心底安堵したように口元がふにゃりと笑みを描く。

 いつもなら、ここから下衣をくつろげて雄芯を取り出――いやいやいや。

「お力になれてよかったです」

 そう、これでよかったのだ。
 助けになれた喜びと同時に、失恋のような痛みが胸を刺すけれど。
 そんなこと、元々わかっていたじゃないか。

「リゼットはなぜ、このハンカチが俺のものだとわかったんだ……? ――――もしや」

 何かに思い至ったように顔を上げたヨルグへ、慌てて声を被せる。

のっ! 見えちゃって……っ!!」

 いつもは大事にサイドチェストにしまわれているハンカチが、表の通りなんかで拾われた理由。
 昨夜出来事と照らし合わせれば、導き出される答えは一つ。

 ヨルグは自身の精で汚してしまったハンカチを、洗って干していたはず――!

「ああ……そうか。他の洗濯物に隠して干したつもりだったんだが、見えてしまっていたか……。いや、見えていたおかげで、こうして俺の元に戻ってきたんだものな」

 どうやら私の推理は的中したようだ。
 自省なのか僅かに肩を落とすヨルグを見ながら、罪悪感の塊を呑み込んでホッと胸を撫で下ろす。

「そのハンカチって彼女さんのですか?」

 声は上擦っていないだろうか。
 自然な感じで聞けただろうか。
 今を逃せば、二度とハンカチについて尋ねられる機会なんて訪れないのだから。

 ヨルグについてもっと知りたいと思う気持ちと、日増し強まっていく恋心に終止符を打たれたいような気持ち。
 相反する二つの感情に、私は一体何を期待してこの問いを口にしたのだろう。

 自分から聞いたくせに答えを聞くのが恐ろしくて、ぐっと顔を俯けて宣告を待つ。
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