くっついちゃった！？ ～ちんちくりん魔法薬師にガサツな騎士隊長を添えて～

31～40話

戦いの前に【下】

　挑戦者になった賞品として宝石を？
　……いいや、よくよく見ると内側の色が炎のように揺らめいて見える。

「これってまさか、『命の前借り』！？」

　魔法薬師間でそう呼んでいるだけで、正式名は『たとえ明日死すとも今日を生きる』という。
　魔法薬師長が若い頃に開発したという回・復・薬・だ。

　効き目は絶大で、どんなに精魂尽き果てた状態だろうとこれを呑めばたちどころに疲れは消え、気力も体力もみなぎってくる。
　――ただし強い副作用があり、使用から二十四時間経過すると、消したはずの『疲れ』が二倍になって襲いかかってくるのだ。

　さすがに副作用で死ぬことはないけれど……。高価なうえに使い勝手が悪すぎて、ほとんど流通していない。
　一般的に使われるのは、気力を奮い立たせるだけのただの気付け薬だ。

「やはりチェリアさんはご存知でしたか」

「まあね……」

　そんなものまで持ち出してくることに、第六部隊の隊員たちがこの大会に懸ける本気を見た気がする。

　乾いた笑いを洩らしていると、部屋の扉がゴンゴンと乱暴にノックされた。

「準決勝の出場選手は用意しろー！」

　選手を呼びに来た騎士の大声に、ルークとシフォルが了承の声を返す。
　私も、自分がここにいるべきではない部外者だということを思い出した。

「試合前の大事なときに長居しちゃってごめんなさい！　私ももう行くわね。観客席から応援してるから、みんな頑張って！」

「はいっ！」

「ありがとうございます」

　私の言葉に二人は笑顔で応え、ディノはグイッと私の手を引いた。

「チェリア――」

　ちゅっ

　唇に触れたやわらかな温もり。
　解放された口を両手で押さえ、わなわなと羞恥に震える。

「こんっ……、なっ……！　な……っっ！！」

　こんな場所で口づけるなんて一体何を考えているのか！！！

「俺だけ見とけ」

　平然と言ってのけるディノの腹部に、渾身のパンチをお見舞いした。