くっついちゃった！？ ～ちんちくりん魔法薬師にガサツな騎士隊長を添えて～

31～40話

もう独りじゃない【上】

　どうしよう。どうしよう。どうしよう。

　ディノの大事な大会が迫っているのに。
　早く自由にしてあげなければいけないのに。

　どうして。誰がこんな。誰のせいで――

「…………私のせいね」

　声にならない懺悔とともに、張り詰めていた何かがふつりと切れた。

　私のせい。
　最初から何もかも私のせいだ。
　あの日ぶつかったりしなければ。
　小瓶の栓をもっときつく嵌めておけば。
　剥離剤の完成を待ってから持ち出していれば。

「チェリア……」

　とめどない後悔が頬を伝って流れ落ちる。

　――本当は気付いてた。
　私のドジに巻き込まれても。
　サインの書きづらさに苛立っても。
　命に関わる大怪我を負ったときでさえ。

　ディノは一度だって私を責めなかった。

　日常生活にも支障を来きたすほどの迷惑をかけているというのに。
　言葉でも、態度でも、『おまえのせいだ』なんて責めるような素振りは僅かも見せない。それどころか、「くっついたのが他の奴じゃなくてよかった」とまで言って。

　嫌味を言われているのだという思い込みが私の目を曇らせていたのだ。
　ディノはいつだって私のことを気にかけ、尊重し、ずっと愛情を示してくれていたのに。

「ごめ……なさ……っ！　ヒック、わたっ、私のせっ……で！」

　そんなディノに対して、私がしたことといえばなんだ！？

　自由を奪って不便な生活を強いて。
　利き手を塞ぎ仕事を妨さまたげて。
　愛情にも気付かずに突っかかっては言い返し。
　挙げ句の果てに、言いつけさえ守れず悲鳴を上げてディノの命を危険にさらした。

　私が。
　私のせいで。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……っ」

　一刻も早くスーパートレナインＸを作り直さなくてはいけないのに。
　泣いている時間さえも惜しいのに。

　情けない。
　不甲斐ない。
　自責の念に押し潰されるように、呼吸が浅くなっていく。

「おい、俺の手首を切り落とせっつってた気概はどうした？」

　ディノは左腕一本で私を抱き上げると、安心させるように笑いかけてくれた。
　そんな優しさが、ますます自己嫌悪に拍車をかける。

「わっ、私が、切るわっ！　ごめっ……ごめんなさい……っ」

「んなことさせるくらいなら俺が切る。――別に大会なんて出られなくても構わねぇっつてんだろ？　そんなんで隊員から舐められるようなら、それは普段から俺が能力を示せてなかったっつーだけの話だ」

「……っ」

　そんなことはありえないと、ディノの首筋に突っ伏した顔を振る。
　ディノが能力を示せていないなんて、そんなはずはない。
　それでもやはり、不満を一掃するためには分かりやすい『証明』が必要なのだ。