くっついちゃった！？ ～ちんちくりん魔法薬師にガサツな騎士隊長を添えて～

31～40話

終わりを告げる安静【上】 ※

　すっかり慣れ親しんだディノの屋敷へと足を踏み入れた途端、へなへなと全身から力が抜けた。どうやら自分でも気付かないうちに、ずっと気を張っていたらしい。

　崩れ落ちかけた私を難なく抱きとめて、ディノが微笑む。

「おかえり、チェリア」

「……ただいま。ふふっ、ディノもおかえりなさい」

「ああ、ただいま。――チェリアのお陰で無事に帰ってこられた」

「私も、ディノのお陰で息をしてるわ」

　見つめあってお互いの無事を喜ぶ。
　とんでもなく大変な目にあったけれど、誰一人欠けることなく無事に帰ってこられた。
　明日も朝から忙しくなるけれど――今だけは、この変わりない日常の幸せを噛みしめたい。




　ゆっくりと美味しい夕食を堪能し、いつものようにお風呂に向かい。
　服を脱いで胸があらわになると、昨夜の記憶が甦った。

『俺に食われてぇ、って』

　質実で、男くさくて、鍛練のことしか頭になさそうなディノの薄い唇が……美味しそうにぱくりと、私の胸を食べたのだ。

「〰〰っ！」

　堪らない羞恥にジタバタと身悶える。
　昨日は心配する気持ちが強くて気にならなかったけれど、今思えばとんでもないことをしてしまった。

　いくら怪我が心配だったとはいえ、本気で抵抗しようと思えば叫ぶなり、桶で殴るなり、いくらでもやりようはあったはずなのに。
　なのに――しなかった。

　大人しく受け入れ、あまつさえ口づけられて心地よさを感じてしまうだなんて。
　これでは、まるで私が……。

「うぅぅ……」

「どうかしたか？」

「ううん、なんでも――って、ディノ！　なんで目を開けてるのよ！？」

　振り返った先で目が合って驚く。
　ギロリと睨みつけた私の視線を悠々と受け止めて、ディノは臆面もなく言い放った。

「せっかくの『褒美』だからな」

「……えっ？　目を開けたいって、あの場だけの話じゃなかったの！？」

「いつ、あの場限りだなんて言った？　俺ぁ『目を開けたい』としか言ってねぇぞ」

「でも、あれは……」

「なんだ？　一度交わした約束を違たがえんのか？　ん？」

「ぐぬぬ……っ！」

　一度は許可したもの。しかも『褒美』という名目を掲げられていては、おいそれと撤回もできない。

「もう全部見たんだ、一遍も百遍も同じだろ？　ほら、いつまでも裸で突っ立ってたら風邪引くぞ」

　繋がった手を引かれ、腑に落ちない心持ちで浴室に入った。