55 / 115
21~30話
待ち受ける試練【下】
しおりを挟む「これって王都で買うと高いのに! 採り放題じゃない!」
「やっぱり森に生えてるものは違うわね。葉が瑞々しくて生き生きしてるわ」
「んー、甘酸っぱくて美味しい! マコイラの実、みんなも食べてみない?」
「たしかに美味いけどよ……チェリアちゃん、そんなに飛ばしてて大丈夫かぁ?」
「ええ、任せてちょうだい!」
心配そうな騎士に胸を張ってみせる。
こんなに素晴らしい薬草の宝庫なら、いくらだって歩けそうだ。
「ディノ……私はもうダメみたい……。私のことは捨て置いて、先に行ってちょうだい……」
「無茶言うな。くっついてんだろーが」
ディノの腕にすがりながら、棒のような脚をよろよろと前後に動かす。
騎士の忠告も聞かず、薬草を求めてうろちょろと左右に逸れながら勝手にみんなの二倍近い距離を歩いた私は、大方の予想通り早々にダウンすることとなった。
「『いざないの乙女』抜きで行っても意味ねぇんだよ。……ったく、世話の焼ける」
ディノは繋がった右腕をぐるりと私の前から回し、巻きつけるように一周させるとひょいと私を抱き上げた。
「ひゃぁっ!?」
お尻の下を支えられ、右腕一本で幼子のように縦抱きにされている。
上半身がぐらついて、慌てて太い首筋にしがみつく。
「ちょっ、ちょっと! なにもここまでしてくれなくたっていいわよ! ディノだって疲れてるんだから!」
「チェリアに合わせて散歩みてぇにゆっくり歩いてきたんだ。誰も疲れちゃいねぇよ」
「えっ」
私はこんなに疲れ果てているのに?
信じがたい発言に周囲を見渡せば、みんな同意するようにウンウンと頷いている。
「隊長が疲れたら、次は俺がおぶってやるからな」
「この人数で交代すりゃあ、いつまででも運んでやれるぜ」
「ずっと誰かしらに乗っときゃあいい。みんなチェリアちゃんなら大歓迎だからよ」
勝手にはしゃいで足を引っ張る私を責めるどころか、みんな笑顔で運び役を申し出てくれる。
疲弊した身体とともに萎んでしまっていた心に、温かな優しさが染み込んでいく。
「みんな、ありがとう……!」
「おい、『みんな』より先に感謝すべき相手がいんだろーが?」
すぐそばにあるディノの不貞腐れたような顔を見つめて、目を瞬く。
「もちろんとっても感謝してるわ! ディノ、ありがとうねっ!」
「……っ!」
ディノの頭をぎゅっと胸に抱きしめる。
運んでくれていることだけじゃない。何かと私を気にかけて、過ごしやすいよう取り計らってくれていることにだって気付いている。
手がくっついてしまったなんて大変な状況下でもそこまで辛くないのは、全部ディノのおかげだと思う。
今までのディノの言葉が悪口ではなかったと知ったからだろうか。
今日は、いつもよりも素直に気持ちを伝えられた気がした。
23
お気に入りに追加
361
あなたにおすすめの小説
ドクターと救急救命士は天敵⁈~最悪の出会いは最高の出逢い~
せいとも
恋愛
救急救命士として働く雫石月は、勤務明けに乗っていたバスで事故に遭う。
どうやら、バスの運転手が体調不良になったようだ。
乗客にAEDを探してきてもらうように頼み、救助活動をしているとボサボサ頭のマスク姿の男がAEDを持ってバスに乗り込んできた。
受け取ろうとすると邪魔だと言われる。
そして、月のことを『チビ団子』と呼んだのだ。
医療従事者と思われるボサボサマスク男は運転手の処置をして、月が文句を言う間もなく、救急車に同乗して去ってしまった。
最悪の出会いをし、二度と会いたくない相手の正体は⁇
作品はフィクションです。
本来の仕事内容とは異なる描写があると思います。
表紙イラストはイラストAC様よりお借りしております。
完結*三年も付き合った恋人に、家柄を理由に騙されて捨てられたのに、名家の婚約者のいる御曹司から溺愛されました。
恩田璃星
恋愛
清永凛(きよなが りん)は平日はごく普通のOL、土日のいずれかは交通整理の副業に励む働き者。
副業先の上司である夏目仁希(なつめ にき)から、会う度に嫌味を言われたって気にしたことなどなかった。
なぜなら、凛には付き合って三年になる恋人がいるからだ。
しかし、そろそろプロポーズされるかも?と期待していたある日、彼から一方的に別れを告げられてしまいー!?
それを機に、凛の運命は思いも寄らない方向に引っ張られていく。
果たして凛は、両親のように、愛の溢れる家庭を築けるのか!?
*この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
*不定期更新になることがあります。
純潔の寵姫と傀儡の騎士
四葉 翠花
恋愛
侯爵家の養女であるステファニアは、国王の寵愛を一身に受ける第一寵姫でありながら、未だ男を知らない乙女のままだった。
世継ぎの王子を授かれば正妃になれると、他の寵姫たちや養家の思惑が絡み合う中、不能の国王にかわってステファニアの寝台に送り込まれたのは、かつて想いを寄せた初恋の相手だった。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
イケメン幼馴染に処女喪失お願いしたら実は私にベタ惚れでした
sae
恋愛
彼氏もいたことがない奥手で自信のない未だ処女の環奈(かんな)と、隣に住むヤリチンモテ男子の南朋(なお)の大学生幼馴染が長い間すれ違ってようやくイチャイチャ仲良しこよしになれた話。
※会話文、脳内会話多め
※R-18描写、直接的表現有りなので苦手な方はスルーしてください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる