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21~30話

待ち受ける試練【下】

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「これって王都で買うと高いのに! 採り放題じゃない!」
「やっぱり森に生えてるものは違うわね。葉が瑞々しくて生き生きしてるわ」
「んー、甘酸っぱくて美味しい! マコイラの実、みんなも食べてみない?」

「たしかに美味いけどよ……チェリアちゃん、そんなに飛ばしてて大丈夫かぁ?」

「ええ、任せてちょうだい!」

 心配そうな騎士に胸を張ってみせる。
 こんなに素晴らしい薬草の宝庫なら、いくらだって歩けそうだ。




「ディノ……私はもうダメみたい……。私のことは捨て置いて、先に行ってちょうだい……」

「無茶言うな。くっついてんだろーが」

 ディノの腕にすがりながら、棒のような脚をよろよろと前後に動かす。

 騎士の忠告も聞かず、薬草を求めてうろちょろと左右に逸れながら勝手にみんなの二倍近い距離を歩いた私は、大方の予想通り早々にダウンすることとなった。

「『いざないの乙女』抜きで行っても意味ねぇんだよ。……ったく、世話の焼ける」

 ディノは繋がった右腕をぐるりと私の前から回し、巻きつけるように一周させるとひょいと私を抱き上げた。

「ひゃぁっ!?」

 お尻の下を支えられ、右腕一本で幼子のように縦抱きにされている。
 上半身がぐらついて、慌てて太い首筋にしがみつく。

「ちょっ、ちょっと! なにもここまでしてくれなくたっていいわよ! ディノだって疲れてるんだから!」

「チェリアに合わせて散歩みてぇにゆっくり歩いてきたんだ。誰も疲れちゃいねぇよ」

「えっ」

 私はこんなに疲れ果てているのに?
 信じがたい発言に周囲を見渡せば、みんな同意するようにウンウンと頷いている。

「隊長が疲れたら、次は俺がおぶってやるからな」
「この人数で交代すりゃあ、いつまででも運んでやれるぜ」
「ずっと誰かしらに乗っときゃあいい。みんなチェリアちゃんなら大歓迎だからよ」

 勝手にはしゃいで足を引っ張る私を責めるどころか、みんな笑顔で運び役を申し出てくれる。
 疲弊した身体とともにしぼんでしまっていた心に、温かな優しさが染み込んでいく。

「みんな、ありがとう……!」

「おい、『みんな』より先に感謝すべき相手がいんだろーが?」

 すぐそばにあるディノの不貞腐ふてくされたような顔を見つめて、目を瞬く。

「もちろんとっても感謝してるわ! ディノ、ありがとうねっ!」

「……っ!」

 ディノの頭をぎゅっと胸に抱きしめる。

 運んでくれていることだけじゃない。何かと私を気にかけて、過ごしやすいよう取り計らってくれていることにだって気付いている。
 手がくっついてしまったなんて大変な状況下でもそこまで辛くないのは、全部ディノのおかげだと思う。

 今までのディノの言葉が悪口ではなかったと知ったからだろうか。
 今日は、いつもよりも素直に気持ちを伝えられた気がした。
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