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11~20話

目指す先【下】

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「私は薬草を渡しただけよ。いくら知識があっても技術が伴わなきゃ活かせないんだから、私に料理なんてできないわ!」

「「「……?」」」

 みんな、知識があればできるものでは? と言いたげに首を傾げてしまった。




 ――どんなに知識があろうと、技術が伴わなければ使えないんだよ。

 幼い私にそう教えてくれたのは、かつての実家の庭師だ。


 五歳のある日。
 庭遊びにも飽きてじっと庭師の作業を眺めていた私は、花壇の隅に雑草が生えているのを見つけ、ゴミを掃除してあげる感覚で雑草を引き抜いた。

「――ああ、それはルラといって、止血剤にも使われる薬草だね」

「えっ」

 優しく微笑んだ老齢の庭師に私を責める意図はなく、単に植物の名前を教えてくれようとしただけだろう。

 それでも私は驚いた。
 自分が邪魔なゴミだと思っていた『雑草』が、誰かを救う薬になるかもしれない『薬草』だったなんて。

 『知らない』ことが価値を見失わせる。
 それは、ひどくもったいないことのように思えた。


 それからは両親に邪魔をしないよう注意されようと、四六時中庭師について回った。
「その花はなんて名前?」「この落ち葉は?」「これも薬になるの!?」
 知れば知るほど、世界に価値のあるものが増えていく。

 庭師の話を聞くだけでは飽き足らず、自分で植物図鑑を読み込むようになるのにそう時間はかからなかった。
「最近の気候なら、今年はウェカがよく育ちそうね」「マコイラの花びらだわ。どこから飛んできたのかしら?」「これって強い消炎作用のある薬草よね。いつも腰が痛いって言ってるし、薬にしてみたらいいんじゃない?」

 そんな私に庭師は言ったのだ。

「どんなに知識があろうと、技術が伴わなければ使えないんだよ。その植物がどうやって薬になるか知っていても、私には調薬の技術がない。私にあるのは植物を元気に育てる技術だけだ」

 知識の使い途――。そんなことを考えたことはなかった。
 世界に見出だしたたくさんの価値を、人のために役立てる手段。

 知識を蓄えるばかりだった私は、その一言で心を決めた。

「じゃあ、私が薬を作ってあげる!」
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