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1~10話

黒き王冠の秘密【下】

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 ――そうか! ディノは魔法に詳しくないから、わかっていないのだ!

「あのね、手首を切り落とすっていっても、薬ですぐに治せるから心配いらないのよ? 手首が嫌だったら手のひらをぎ落とすのでもいいわ! ほら、ちょうど剣もいてることだし!」

「おい待て。切断のことは忘れろ」

 剣へと伸ばした手が防がれる。

「えぇー?」

 手っ取り早く離れられる手段があるというのに、なぜ忘れる必要があるのか。
 ディノだってさっさと離れたいだろうし、私だって離れたい。

「仮にその方法で身体が離れたとして、おまえのほうは切った俺の手首をくっつけたまま過ごすことになるんだぞ?」

 一瞬その光景を想像しかけて……ぶるると首を振る。
 本体ごとくっついているのも嫌だけれど、手首だけくっついているのはもっと嫌だ。

「忘れるわ」

 剥離剤の作成を急ぐ方向で話はまとまった。
 ――とはいえ必要な材料は切らしていてすぐには用意できないこと、ディノは長期遠征から帰還したばかりであることを踏まえ、今日のところは無駄なあがきを諦めて下城することになった。




 すれ違う人々の好奇の視線を浴びながら、歩調を緩めたディノに手を引かれて調薬室に戻る。

 同僚たちも一様にギョッとした顔をしているけれど、むっすり不機嫌そうな巨体の騎士隊長が恐ろしいのか、声をかけてくる者はいない。

 代わりに「連行?」「ついにやらかしたか」「いつかやりそうな気はしてた」というなんとも失礼な囁きが聞こえてきた。

 まったく失礼な話だ! どこをどうすれば私が連行中の罪人に見えるというのか!
 ……まあ実際問題、おかげでこんなことになっているので反論の余地はないのだけれど……。

「そうやってむくれてると本当にヤマリスそっくりだな」

「!!」

 そういえばこの男が『失礼』の筆頭だった!

 ヤマリスといえば小さな身体で気が強く、ちょこまかと罠をかい潜っては作物や薬草の根にかじりつく、薬師の天敵ともいうべき害獣である。
 そのヤマリスを引き合いに出しては、ことあるごとに似てる似てると言ってくるのだ。腹立たしいことこのうえない。

「あなたはファングベアーに似てると思うわ」

 灰色っぽい毛並みで、後ろ足で立てば大の男二人分の体長はあろうかという巨大な魔獣だ。
 もちろん、周辺の森に現れれば即座に討伐隊が組まれ討伐対象となる。

「いや、さすがにそこまで強かねぇけどよ」

 ええい、なぜか嬉しそうなのが腹立たしい!

 スーパートレナインXを厳重にしまい込んだ私は、引ったくるように手荷物を掴んでぷりぷりと調薬室を後にした。
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