ご主人様は愛玩奴隷をわかっていない ～皆から恐れられてるご主人様が私にだけ甘すぎます！～

１０１～最終話

１０４c、【終】ご主人様は愛玩奴隷をわかっていない

　やがて余韻が消え、その場がしんと静まり返ると、遠くから微かにパイプオルガンのような音色が聞こえた。

「……マヤと離れるなど、あるはずがない」

　静かに、力強く発せられる言葉。
　そう言うなり、ガルは拐うように私を抱き上げた。

　ドレスも装飾品もずっしりとしていつもより数段重たいはずなのに、ガルはいとも容易く私を腕に抱き上げる。
　微かに身じろげば、離すまいと腕の力が強まる。

　スカートのボリュームでいつもより少し視線が高い。たっぷりとしたスカートは、支える腕とガルの胸に挟まれてくしゃくしゃに押し潰された。

「不安にさせてすまない……。何を見聞きしたのか知らないが、帰すというのはだな……、その……、マヤの住んでいた世界へ、二・人・で・渡る手段を調べていたんだ」

「……………………ふたりで……？」

　言いづらそうに発された言葉に、ゆっくりと視線を上げる。
　滲んだ視界では、ガルの表情さえもわからないけれど。

「元の世界で、したいこともあっただろう。好きなものもあっただろう。思い描いた未来だってあったはずだ。そんなマヤの自由を奪って……そんなもの、『界くぐり』など、ただの天災じゃないか」

　……ガルは私が異世界から来たという話を聞いて、ずっとそんなことを考え悩んでいたのだろうか。

「マヤが『界くぐり』によって奪われたすべてを、その手に返してやりたかった。決して手放してやることはできないが……だからこそ、俺も共にマヤの世界へ渡ればいいと思ったんだ」

　滲んだ視界からぽたりと雫が落ちて、はっきりとガルの顔が見えた。
　意志の強さを思わせる燃えるような紅い瞳が、真っ直ぐにこちらを向いている。