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101~最終話
102b、私は今日の日をわかっていない
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九日ぶりに、やっとガルに会える。
再会を思い胸に滲み広がる喜びを、同じ速度で不安が蝕んでいく。
どうしよう、ガルに会うのが怖い。
どんな顔をして会えばいいというのか。
だって、ガルは私を———
「このあとコルセットを締めますので軽いものですが、こちらもお召し上がりください」
片手で食べやすいよう一口サイズになったカナッペの皿が目の前に差し出される。
思考を中断した私は飲み終わったカップを預け、相変わらず味のわからないそれを言われるままに三つほど摘まんでおいた。
手前に置いた椅子にメイド長が座り、向かい合ってメイクを施される。
ふわふわのブラシで顔を撫でられることにくすぐったさを感じて目を細めると、メイド長が静かに口を開いた。
「旦那様も、きっとマヤ様との再会を心待ちになさっていることと存じます」
「……」
私を元の世界へ帰そうとしているのに?
つい口をついて出そうになる言葉を飲み込む。
メイド長に言ってもどうしようもないことだ。
メイド長はどうやら、私がガルと離された寂しさで塞ぎ込んでいると思っているらしい。
ずっと気遣ってくれて、今だって優しい声音で私を励まそうとしてくれているのに、応えられないのが申し訳ない。
「幼少のみぎりよりお仕えしておりますが、旦那様がこのようにお心を寄せ、ご執着を見せられたのはマヤ様が初めてでございます」
「……はい」
本当に執着してもらえていれば、帰そうなどと考えられずに済んだのだろうか。
「旦那様はマヤ様をそれはもう大切に思っていらっしゃいますわ」
「こうしてマヤ様と離れて過ごされる間も、ずっとマヤ様のことを考えていらっしゃるはずですわ」
メイド二人が口々に言い添える。
私も、ずっとそう思っていた。
ガルに大切にされて、想われているのだと。
その認識は間違っていないだろう。今までの日々が幻想だったとも思わない。
惜しみない愛情をくれて、優しく包み込んで、ガルなしでは生きていけない私を作り上げて———けれどガルは、私と離れても平気なのだ。
例えもう、一生会えなくなるとしても。
ガルは今日、一体どんなつもりで結婚式を挙げるのだろう……。
再会を思い胸に滲み広がる喜びを、同じ速度で不安が蝕んでいく。
どうしよう、ガルに会うのが怖い。
どんな顔をして会えばいいというのか。
だって、ガルは私を———
「このあとコルセットを締めますので軽いものですが、こちらもお召し上がりください」
片手で食べやすいよう一口サイズになったカナッペの皿が目の前に差し出される。
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ふわふわのブラシで顔を撫でられることにくすぐったさを感じて目を細めると、メイド長が静かに口を開いた。
「旦那様も、きっとマヤ様との再会を心待ちになさっていることと存じます」
「……」
私を元の世界へ帰そうとしているのに?
つい口をついて出そうになる言葉を飲み込む。
メイド長に言ってもどうしようもないことだ。
メイド長はどうやら、私がガルと離された寂しさで塞ぎ込んでいると思っているらしい。
ずっと気遣ってくれて、今だって優しい声音で私を励まそうとしてくれているのに、応えられないのが申し訳ない。
「幼少のみぎりよりお仕えしておりますが、旦那様がこのようにお心を寄せ、ご執着を見せられたのはマヤ様が初めてでございます」
「……はい」
本当に執着してもらえていれば、帰そうなどと考えられずに済んだのだろうか。
「旦那様はマヤ様をそれはもう大切に思っていらっしゃいますわ」
「こうしてマヤ様と離れて過ごされる間も、ずっとマヤ様のことを考えていらっしゃるはずですわ」
メイド二人が口々に言い添える。
私も、ずっとそう思っていた。
ガルに大切にされて、想われているのだと。
その認識は間違っていないだろう。今までの日々が幻想だったとも思わない。
惜しみない愛情をくれて、優しく包み込んで、ガルなしでは生きていけない私を作り上げて———けれどガルは、私と離れても平気なのだ。
例えもう、一生会えなくなるとしても。
ガルは今日、一体どんなつもりで結婚式を挙げるのだろう……。
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