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91~100話

91d、ご主人様は入念な準備をわかっていない

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………………


 半刻ほどして、俺は一抱えはある金庫を手にウィルドの元へと戻った。

「書斎の引き出しや帳簿も見たが、これといった物は見つからなかった。ただ、金目の物を入れていると思われる金庫の奥に、隠すようにしてこれがあった。この中に何かあると思うんだ」

 金や宝石の音がしないことを証明するように、金庫を軽く上下に揺すってみる。
 微かに中で物が動く気配はあるものの、やはり音はしない。

「お前……金庫なんてそんな重いもん、よく持ち出せたな……」

 ウィルドの顔がなぜか若干引きつっている。

「壊すのでよければどうにかなりそうなんだが……すぐに足がついてはまずいんだろう? どうにかこれを開けられないか?」

 周囲を漁ったが鍵らしき物はなかった。
 恐らく寝室か、或いは常に身に付けているのだろう。

 敵軍の捕虜となった場合に備え、基本的な解錠の方法については騎士学校で学んでいる。
 しかし金庫の錠ともなれば、その複雑さは段違いだ。
 特に俺は細かい作業が苦手で、当時から錠開けは不得手だった。

「それ、ちょっとその辺に下ろしてくれ」

 ウィルドは金庫を地面に置かせると、持参した袋をガサゴソと漁り、巻物状の布を取り出して地面に広げた。

「こんな事もあろうかと……ジャーン! 解錠セット~!」

 広げた布の内側には細いポケットがたくさんあり、その一つ一つに複雑な形状の細い金属棒が入っている。
 しかし俺の知っているものより格段に種類が多い。
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