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51~60話
56b、ご主人様は同僚の指摘をわかっていなかった
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「ほら、着いたぞ。ここが俺の執務室だ」
『第二部隊
隊長 ガリュース=バドア
副隊長 ウィルド=フェンベック』
ご大層なネームプレートの付けられた扉を開ける。
先に戻っていたウィルドが、物音に気付いて顔を上げた。
「おー、マヤちゃん久しぶり!」
「フェンベック様、お久しぶりです」
マヤが下ろしてほしそうにクイクイと袖を引くが、生憎と下ろしてやるつもりはない。
ウィルドが二言、三言マヤに話しかけるのを横目にマヤを抱いたまま歩を進め、奥にある自席へと着座した。
「おーい、ガリュース……?」
「なんだ?」
「お前、そのまま仕事する気か?」
『そのまま』とは何を指しているのだろうか?
チラと左右を見ても、別段変わった点はない。
「? 問題でも?」
「いやいやいや……すぐそこに応接セットがあんだから、マヤちゃんにはそこのソファに座って見ててもらやぁいいだろーが」
ああ、マヤの所在についての話か。
マヤの定位置など俺の膝の上に決まっている。
だがウィルドが余計な口出しをしたことで、マヤもその意見に同調する素振りを見せた。
「ガル様……? 私、ソファにいますよ?」
「マヤ、せっかく一緒にいられるというのに、離れてしまうのか?」
眉尻を下げ、強請るようにマヤを見つめる。
優しいマヤは情に訴えられるのに弱いようで、俺が悲しげにして見せれば悲しませまいとして、大抵の願いは聞き入れてくれるのだ。
「……お仕事、しにくくないですか……」
「ああ。マヤを乗せていた方が捗る」
今だって、ほら。
「じゃあ、ここにいます……」
こうやってマヤは俺を甘やかす。
マヤだって俺が本気で悲しんでいるとは思っていないだろう。
それでもその小さな身体で、俺の存在を丸ごと受けとめ、願いを叶えて喜ばせようとすらしてくれる。
愛しい愛しいマヤ。
いつか本当の意味で、何もかもを俺のものにできるだろうか。
「へーへー、勝手にやっててくれ」
話の発端を作ったはずのウィルドはこちらへ一瞥もくれず、どうでもいいとばかりに吐き捨てた。
『第二部隊
隊長 ガリュース=バドア
副隊長 ウィルド=フェンベック』
ご大層なネームプレートの付けられた扉を開ける。
先に戻っていたウィルドが、物音に気付いて顔を上げた。
「おー、マヤちゃん久しぶり!」
「フェンベック様、お久しぶりです」
マヤが下ろしてほしそうにクイクイと袖を引くが、生憎と下ろしてやるつもりはない。
ウィルドが二言、三言マヤに話しかけるのを横目にマヤを抱いたまま歩を進め、奥にある自席へと着座した。
「おーい、ガリュース……?」
「なんだ?」
「お前、そのまま仕事する気か?」
『そのまま』とは何を指しているのだろうか?
チラと左右を見ても、別段変わった点はない。
「? 問題でも?」
「いやいやいや……すぐそこに応接セットがあんだから、マヤちゃんにはそこのソファに座って見ててもらやぁいいだろーが」
ああ、マヤの所在についての話か。
マヤの定位置など俺の膝の上に決まっている。
だがウィルドが余計な口出しをしたことで、マヤもその意見に同調する素振りを見せた。
「ガル様……? 私、ソファにいますよ?」
「マヤ、せっかく一緒にいられるというのに、離れてしまうのか?」
眉尻を下げ、強請るようにマヤを見つめる。
優しいマヤは情に訴えられるのに弱いようで、俺が悲しげにして見せれば悲しませまいとして、大抵の願いは聞き入れてくれるのだ。
「……お仕事、しにくくないですか……」
「ああ。マヤを乗せていた方が捗る」
今だって、ほら。
「じゃあ、ここにいます……」
こうやってマヤは俺を甘やかす。
マヤだって俺が本気で悲しんでいるとは思っていないだろう。
それでもその小さな身体で、俺の存在を丸ごと受けとめ、願いを叶えて喜ばせようとすらしてくれる。
愛しい愛しいマヤ。
いつか本当の意味で、何もかもを俺のものにできるだろうか。
「へーへー、勝手にやっててくれ」
話の発端を作ったはずのウィルドはこちらへ一瞥もくれず、どうでもいいとばかりに吐き捨てた。
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