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51~60話
56d、ご主人様は同僚の指摘をわかっていなかった
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パンをちぎってマヤに与え、もう一つちぎって自分の口に放り込む。
「あ、ガル様、口元にパン屑が」
「ああ、すまない」
パン屑を摘みとってくれたマヤの手を掴むと、美味そうな小さな指先ごとパクリと口に含んだ。
「っ!」
みるみる染まっていく頬もまた美味そうだ。
「俺そろそろ砂糖吐きそ……って、あれっ? お前らいつの間に婚約したんだ!?」
うんざりとした顔をしていたウィルドは、マヤの左手に指輪を見つけてパッと目を見開いた。
ギクリ
予期せぬ事態に身体が強張る。
不味い。時期尚早だ。
これからマヤが成人するまでの年月をかけて、じっくりとマヤの好意をこちらに向けさせ、最終的に心を手に入れてから婚約のことを告げるつもりが……。
「お前、ら……ですか?」
「だってそうだろ? マヤちゃんのそれ」
マヤが困惑した様子で問い返せば、ウィルドがフォークの先でマヤの左薬指を指し示した。
「え……だって……」
マヤの視線がフォークの先と指輪を往復する。
戸惑いが伝わってくる。
自分は婚約のことなど一言も聞かされていない、と言いたいのだろう。
婚約だとわかっていれば了承しなかった、と続くのかもしれない。
背筋を冷たい汗が伝う。
マヤは今、何を思っているのだろうか。
「……ガル様?」
後ろめたさにふいと目を逸らせば、ジトリとした視線が横面に突き刺さった。
「あ、ガル様、口元にパン屑が」
「ああ、すまない」
パン屑を摘みとってくれたマヤの手を掴むと、美味そうな小さな指先ごとパクリと口に含んだ。
「っ!」
みるみる染まっていく頬もまた美味そうだ。
「俺そろそろ砂糖吐きそ……って、あれっ? お前らいつの間に婚約したんだ!?」
うんざりとした顔をしていたウィルドは、マヤの左手に指輪を見つけてパッと目を見開いた。
ギクリ
予期せぬ事態に身体が強張る。
不味い。時期尚早だ。
これからマヤが成人するまでの年月をかけて、じっくりとマヤの好意をこちらに向けさせ、最終的に心を手に入れてから婚約のことを告げるつもりが……。
「お前、ら……ですか?」
「だってそうだろ? マヤちゃんのそれ」
マヤが困惑した様子で問い返せば、ウィルドがフォークの先でマヤの左薬指を指し示した。
「え……だって……」
マヤの視線がフォークの先と指輪を往復する。
戸惑いが伝わってくる。
自分は婚約のことなど一言も聞かされていない、と言いたいのだろう。
婚約だとわかっていれば了承しなかった、と続くのかもしれない。
背筋を冷たい汗が伝う。
マヤは今、何を思っているのだろうか。
「……ガル様?」
後ろめたさにふいと目を逸らせば、ジトリとした視線が横面に突き刺さった。
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