ご主人様は愛玩奴隷をわかっていない ~皆から恐れられてるご主人様が私にだけ甘すぎます!~

南田 此仁

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41~50話

49a、ご主人様は泣きそうな理由をわかっていなかった

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マヤに口付けてしまった……。

俺はなんて事を。
ああ、だがしかし。

見た目の通り、小さくともふっくらとやわらかな唇だった。
頬に口付けられた時とも違う。皮膚の薄い部位同士を触れ合わせる、しっとりと吸い付くような感触。

舌を差し入れれば唾液は甘く、小さな舌をぬるりと捉えたなら愛らしくも艶めいた声を上げる。

「マヤ……、…………」

煮えたぎる欲望を、無理矢理に抑え込む。

何度となく頭から冷水を浴び、剥がれ落ちたメッキを拾い集めて何とか平静を装うと、風呂に入れるためマヤを迎えに行った。



騎士学校の授業でさえここまで真剣にそらんじたことはないだろう。
頭の中で『騎士の十戒』を繰り返し唱える。

汝、秀でて強くあるべし
汝、弱き者を護るべし
汝、偽ることなかれ
汝、高潔たれ
汝、祖国を愛し……
汝、……
……

時折り騎士学校時代の記憶に混じって、汗だくのむさ苦しい教官や使い古された練習用鎧内部の異臭が思い出されるのもゲンナリとして都合がいい。

いつものように、マヤを抱きしめて湯に浸かる。

あんなことをされても未だ俺を遠ざけることなく腕の中に収まるマヤへ、これ以上の欲望を向けないことだけに全力を注いだ。
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