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21~30話
28b、番外編 ご主人様の追憶
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俺の相手をしてくれるのは一部の使用人と父だけだった。
父は俺といる間、常に俺を鍛錬し続けた。
持って生まれた力に驕らず、強大な力に見合った強い精神を手に入れるようにと。
いつか手にする本当に大切なものを、守り抜けるだけの力をつけろと。
泣き言を言えば父からも見放されてしまうかもしれない。
それだけが何よりも恐ろしく、俺は黙って父の課す厳しい訓練に従い続けた。
母の視界に入らないよう過ごし、両親が食事を終えた後に一人で食事をとる。
そんな生活にもいつしか慣れ、俺は父の特訓の甲斐あって父と同じ騎士の道に進んだ。
会う人会う人に怯えた目を向けられるのは変わらないけれど、鍛えられた騎士は恐れをあからさまに表面に出さないことが救いだった。
王は俺の能力を買ってくれるし、友人と呼べる仲間もできた。
広がった世界の中に、ようやく自分を見出せそうだと思った矢先。
旅行先で馬車の事故に巻き込まれ、両親が亡くなったとの報せが届いた。
そこからの記憶は分厚い幕の向こうで演ぜられる芝居のように現実味がなく、何もかも自分の体験ではないかのようだ。
ただ空っぽな心の中にポツンと、「どんなに強くなっても大切なものを守りきれないじゃないか」という思いだけが残された。
父は俺といる間、常に俺を鍛錬し続けた。
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泣き言を言えば父からも見放されてしまうかもしれない。
それだけが何よりも恐ろしく、俺は黙って父の課す厳しい訓練に従い続けた。
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そこからの記憶は分厚い幕の向こうで演ぜられる芝居のように現実味がなく、何もかも自分の体験ではないかのようだ。
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