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21~30話
28d、番外編 ご主人様の追憶
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非番を待って街の愛玩動物店を訪れてみれば、俺が近づいた瞬間から一斉に動物達の吠え声が響く。
どの動物も檻の最奥に身体を引っ付け、それでもさらに後ずさろうと前足で地面を蹴っている。
一匹だけ、檻の中央に鎮座したままの幼獣を見つけ側に寄ってみれば、失禁して腰を抜かしているだけだった。
他の二軒も同じような有り様。
あの状態で飼っては、俺に飼育されるストレスで早逝してしまうだろう。
愛玩動物を諦めた俺は、以前耳にしたことのある『愛玩奴隷』を求めて人族の国の国境へと転移した。
そうして出会ったのだ。
俺の目を見ても怯えることなく、安心しきったように身を任せるこの愛らしい生き物に。
俺は腕の中で眠るマヤを起こさないよう、そっと髪を撫でた。
ビクビクと可愛らしい警戒をしてみせたオークションの当日でさえ、マヤの瞳に俺に対する怯えの色が混じったことはない。
見た目はこんなに小さくか弱そうなのに、意外に肝が据わっている。
ウィルドは俺に「自分を必要としてくれる存在が必要だ」と言った。
だがどうだ?
蓋を開けてみれば、俺の方がもうマヤなしでは生きられそうにない。
叶うことなら、この何よりも愛しい存在が、永遠にこの腕の中にいてくれますように。……否。例え何が阻もうとも、もう決して手放しはしない。
「おやすみ、マヤ」
ぷっくらと桜色をしたやわらかそうな唇に、そっと口付けを落とした。
どの動物も檻の最奥に身体を引っ付け、それでもさらに後ずさろうと前足で地面を蹴っている。
一匹だけ、檻の中央に鎮座したままの幼獣を見つけ側に寄ってみれば、失禁して腰を抜かしているだけだった。
他の二軒も同じような有り様。
あの状態で飼っては、俺に飼育されるストレスで早逝してしまうだろう。
愛玩動物を諦めた俺は、以前耳にしたことのある『愛玩奴隷』を求めて人族の国の国境へと転移した。
そうして出会ったのだ。
俺の目を見ても怯えることなく、安心しきったように身を任せるこの愛らしい生き物に。
俺は腕の中で眠るマヤを起こさないよう、そっと髪を撫でた。
ビクビクと可愛らしい警戒をしてみせたオークションの当日でさえ、マヤの瞳に俺に対する怯えの色が混じったことはない。
見た目はこんなに小さくか弱そうなのに、意外に肝が据わっている。
ウィルドは俺に「自分を必要としてくれる存在が必要だ」と言った。
だがどうだ?
蓋を開けてみれば、俺の方がもうマヤなしでは生きられそうにない。
叶うことなら、この何よりも愛しい存在が、永遠にこの腕の中にいてくれますように。……否。例え何が阻もうとも、もう決して手放しはしない。
「おやすみ、マヤ」
ぷっくらと桜色をしたやわらかそうな唇に、そっと口付けを落とした。
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