ご主人様は愛玩奴隷をわかっていない ~皆から恐れられてるご主人様が私にだけ甘すぎます!~

南田 此仁

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11~20話

14c、私は質問の意味をわかっていない

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 目の前にしゃがみ込んで手を差し出すと、低い鼻を寄せてフンフンと匂いを嗅いだ後、ペロリと私の手の平を舐め上げた。

「ふふっ、くすぐったい」

 フェンベックの言っていた通り、本当に人懐っこい仔のようだ。

「こんにちは、ウルちゃん」

 ウルの頭を撫でれば、ほんのりと温かく幼い動物特有のやわらかな毛並みでふわふわとしている。

 ああ、ぽわんぽわんで気持ちいい……いつまでも触っていたい……。

 堪らずそっと抱きしめてその毛並みに鼻を擦り寄せれば、温かな陽だまりの匂いがした。

「じゃあ、俺らはあっちに座ってるから。ガリュースがいるとウルも怯えちゃうみたいだし」

 指差された先を見れば、芝生の奥の方が一部レンガ敷きになっており椅子とテーブルが置かれている。
 あそこに座っていれば芝生全体が見渡せるだろう。

 フェンベックは躊躇うガルを伴ってテーブルの方へ向かって行った。

「ウルちゃん、一緒に遊んでくれる?」

「わふっ」








 ガルとフェンベックは向かい合わせに座って紅茶を飲みながらも、その顔は芝生側に向けて固定されている。

 芝生の上では一人と一匹がもつれるようにじゃれ合って、楽しげに転げ回っていた。
 そちらへ視線を固定したまま、フェンベックが溜め息混じりに呟く。

「はぁー。楽しそうにじゃれちゃって、可っ愛いよなぁ……」

「ああ」

 相槌を打つガルの視線も固定されたままだ。

「走ってても座ってても何しても一々可愛くって、見てて飽きないんだよなぁ……」

「まったくだ」

「この世にこんな可愛い生き物がいたなんてなぁ……」

「本当にな」

「遠慮がちだったのが、段々慣れてくるとベッタリ懐いてくれるのも嬉しくてさぁ……」

「よくわかる」

「抱きしめると全身からいい匂いがして……」

「うむ」

「毛並みなんて綺麗な銀色で……」

「……? 漆黒だろう」

「は??」

「?」

 互いに横を向いたまま膝を突き合わせる二人の会話は、何一つとして噛み合っていなかった。
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