ご主人様は愛玩奴隷をわかっていない ~皆から恐れられてるご主人様が私にだけ甘すぎます!~

南田 此仁

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1~10話

9c、私は移動手段をわかっていない

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「……あれ?」

 目の前には大きな門。左右に伸びる塀には終わりが見えない。
 堅固な門は私が束になって押してもびくともしなさそうだ……って、そうではなくて。

 たった今、ガルの屋敷の門を出たところだったはずだ。

 門が二重になってる?

 ガルの頭越しに後ろを窺い見れば、そこには真っ直ぐ通る幅の広い街道と、見たことのない街の風景が広がっていた。

「? ……??」

「どうした?」

 私を抱えたまま門番の元で何がしかの手続きを終えたガルは、前後を交互に見やってキョロキョロし続ける私を訝った。

「あの、ここは……? ガル様のお屋敷はどこに??」

「ここは王城だ。なんだ、転移は初めてか」

「転移……」

「屋敷や王城の敷地内には結界が張られていて転移魔法が使えないからな、門の手前までしか飛べないんだ」


 結界。転移。……まほう。

 ああ、私は本当に全く知らない世界に来てしまったんだ……。

 今までは、異世界にいると思っていてもそれはただの推察で、端から物語を眺めているかのようにどこか現実感がなかった。
 奴隷商館の檻に入れられていた時だって、どこか他人事だったから耐えられた。
 思えばこの首輪の熱だって、魔法で作用していたに決まっているのに。

 ガルの言葉に今いる場所をハッキリと自覚した途端、世界から取り残されたような言いようのない疎外感に襲われる。

 ガラガラと足元から地面が崩れ落ちていくようで、自分の輪郭さえわからなくなりそうで、逞しいガルの首にギュッとすがった。

「怖いことはない。俺がついている」

 ああ、ガルはまた誤解している。
 私が転移を怖がっていると思っている。

 だけど、今はただ、その言葉だけがよすがだった。
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