ご主人様は愛玩奴隷をわかっていない ～皆から恐れられてるご主人様が私にだけ甘すぎます！～

１～１０話

７b、私は時間の潰し方をわかっていない

　詮無いことをぐるぐると考えるうちに、気付けば窓の外はすっかりと暗くなっていた。

「ガル様、遅いなぁ……」

　広い室内に私の呟きだけが虚しく響く。


　不意に扉の向こうが騒がしくなり、何事かと上体を起こす。
　ダダダダとすごい早さで近付いてきた足音は、そのまま扉を開けて勢いよく飛び込んできた。

　バタンッ

「マヤっ！！？」

「ひぇっ！　……あ、ガル様！　おかえりなさい」

　驚きに縮こまった身を解きガルを出迎えようと立ち上がると、即座に逞しい腕に捕らわれる。

「マヤ……ああ、よかった。ちゃんと家で待っていられたんだな」

　留守中に私が逃げ出してはいないかと心配していたのだろう。
　首輪の契約をしていれば逃亡も自害も出来ないと説明されていたはずなのに、やっぱり自分の目で見ないと信じられないのかもしれない。

　そこにいるのを確かめるようにひとしきり撫でさすられたり頬擦りされたりした後は、上着を脱いだガルに抱えられて食堂に運ばれた。




　ガルの私室とトイレ以外の部屋に入るのは初めてだ。
　食堂は広いガルの部屋よりさらに広くて、横に長ーいテーブルの両端に一脚ずつ、二脚の椅子が据えられていた。

　しかし使われた椅子は一脚だけだ。

　なぜなら、私の席は当然のようにガルの膝の上だったから。
　まあ予想はしていた。

「遅くなってすまなかった。腹が空いただろう」

　ソースのかかったチキンを切り分けて差し出される。もぐもぐごっくん。

「おやつを沢山貰ってたので大丈夫ですよ。あの、ガル様、私一人でも座って食事できます」

「マヤは小さいから椅子の高さが合わず食べにくいだろう」

　具だくさんのスープをスプーンで運ばれる。ずずーっごっくん。

「……クッションを何個か敷かせてもらえれば」

「ベッドで溺れるマヤに？　クッションから転げ落ちたらどうする」

　これは何だろう？　あーん。あ、揚げた魚だ。

「でも、これじゃあガル様が食事しにくいじゃないですか」

「いいや、問題ない。……一緒に食事するのを楽しみにしていたんだ」

　そう言われてしまってはこれ以上強く拒否する事も出来ない。
　悪あがきを諦めた私は、大人しくガルに抱えられたまま食事を続けた。