ご主人様は愛玩奴隷をわかっていない ～皆から恐れられてるご主人様が私にだけ甘すぎます！～

１～１０話

７a、私は時間の潰し方をわかっていない

　未だ目の前に並ぶ色とりどりの焼き菓子が、食べてほしそうにこちらを見つめてくる。
　名残惜しいけれど、如何せんお腹が限界だ。
　元より寝坊してついさっきお昼ご飯を食べたばかりなのだ。限界も近い。

「どれも美味しかったです！　ありがとうございます、リーファさん」

「恐れ入ります、マヤ様」

　メイド長のリーファは綺麗に微笑んで一礼すると、てきぱきとティーセットを片付けはじめた。
　二十代くらいに見えるけれど、とても落ち着きがあるから実際はもっと上かもしれない。

　奴隷よりもメイドの方が立場が上だと思うのだが、午後のお茶を運んできたリーファは、私が様付けして呼ぶ事を頑なに固辞した。
　お互いの言い分の間を取ってさん付けになったのはいいのだが、なぜか「私のことは呼び捨てで！」との願いは聞き入れられないままマヤ様と呼ばれている。解せぬ。

　様付けで呼ばれ、ソファに座ってメイドに給仕される奴隷……。
　それ多分、奴隷じゃない。


　メイド長が退室すると、また部屋に一人になる。
　手慰みに角の生えたウサギのぬいぐるみを弄びながら、私はごろんとソファに寝そべった。

　本当にこれは現実だろうか？
　昨日までの奴隷商館暮らしと今の状況があまりにも違いすぎて、気持ちが追いつかない。

　ガルは何のために私を買ったんだろう？

　この屋敷には他にも奴隷が居るんだろうか？

　奴隷から脱却するにはどうしたらいい？

　そもそも奴隷は辞められるものなの？


　そしてそれを、誰に尋ねればいい……？