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1~10話
5c、私は水瓶の用途をわかっていない
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しかし突然水瓶を見せられてどうだと言われても反応に困る。
部屋に似合うかと言う意味であれば、間違いなくガルの部屋には似合っていないけれど。
「ええと、これは?」
「マヤ用の手洗い場を用意してみたんだ」
手洗い場。
話の流れから考えるに、ガルの言う手洗い場とは単純に手を洗う場所ではなくトイレの事を指すわけで、と言うことはこの水瓶は中に排泄するための物なわけで、…………いやいやいやいや。
そう言った特殊な嗜好があるのだろうかとガルを窺い見れば、相変わらず仏頂面なものの心なしか誇らしそうに、真っ直ぐこちらを見つめている。
信じたくはないが、彼はきっと純粋に善意からこれを用意してくれたのだろう。
そして私に喜んでほしそうでもある。
それはわかる。
それはわかる、が、やっぱり無理だ。
様々な言葉を飲み込んで、私は意を決して口を開いた。
「あの、使用人の方用のお手洗いを使わせていただく事は、できませんか?」
奴隷には過ぎた願いだと叱責されるだろうか。甘い顔をしていれば付け上がってと侮蔑されるだろうか。
奴隷商館の檻の中よりはマシなのだから、大人しく受け入れるべきなのだろうか。
色んな想いが渦巻き、怖くてガルの目を見ることができない。
「……ヒトと同じでいいのか?」
他人とトイレを共用してもかまわないのかと問うているのだろうか。
一も二もなくコクコクと頷く。
「そうか。ならこっちだ」
元から怒ったような顔をしているので気分を害したのかどうかは読み取れないけれど、踵を返して歩き出したその背中が少し萎れて見えるのは気のせいだろうか。
部屋に似合うかと言う意味であれば、間違いなくガルの部屋には似合っていないけれど。
「ええと、これは?」
「マヤ用の手洗い場を用意してみたんだ」
手洗い場。
話の流れから考えるに、ガルの言う手洗い場とは単純に手を洗う場所ではなくトイレの事を指すわけで、と言うことはこの水瓶は中に排泄するための物なわけで、…………いやいやいやいや。
そう言った特殊な嗜好があるのだろうかとガルを窺い見れば、相変わらず仏頂面なものの心なしか誇らしそうに、真っ直ぐこちらを見つめている。
信じたくはないが、彼はきっと純粋に善意からこれを用意してくれたのだろう。
そして私に喜んでほしそうでもある。
それはわかる。
それはわかる、が、やっぱり無理だ。
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他人とトイレを共用してもかまわないのかと問うているのだろうか。
一も二もなくコクコクと頷く。
「そうか。ならこっちだ」
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