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1~10話
5a、私は水瓶の用途をわかっていない
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やわらかなシーツに包まれ、もう少し寝ていたいと枕に顔を埋める。
こんなによく寝たのはいつぶりだろう?
最近よく眠れていなかったのだ―――そう、怖い夢を見て。
突然知らない世界に飛ばされて、奴隷として暴力を振るわれた挙げ句売られるなんて。ここのところ文化祭の準備に受験勉強にと忙しくしていたし、かなりストレスを溜め込んでいたのかもしれない。
まったく、酷い悪夢だった。
だけど夢の最後だけは―――
「……ヤ、マーヤ、おーい、昼食も食い逃すぞ」
『昼食』の言葉に、眠りにつこうとしていた頭がピクリと反応する。
先ほどからスリスリと頬をくすぐる何かを払いのけながら薄く目を開けば、目の前には無愛想な顔があった。
「え? ここは……」
「ここは俺の屋敷で、昨日からマヤの家でもある。目は覚めたか?」
黒髪紅眼の厳めしい顔をした男が、ベッドに腰かけてこちらを覗き込んでいる。
そうだ。夢なんかじゃない。
私は実際に奴隷として売られて、この人に買われたんだ!
心地よいまどろみは弾け跳び、慌ててガバッと上体を起こす。
「勝手に寝てしまってすみません!」
記憶にあるのは風呂に浸かったところまでだけれど、今はダボダボなシャツを着せられている。
元はガルの半袖なのだろうシャツは、私が着ると七分袖ほどの長さがあった。
ダブつくシャツと沈み込むほどふかふかなマットに縺れながらわたわたとベッドを出ようとすると、両脇を持ってスポッと引き上げられた。
寝かせられていたのは昨日ガルの寝室で見た広いベッドの上だ。
こんなによく寝たのはいつぶりだろう?
最近よく眠れていなかったのだ―――そう、怖い夢を見て。
突然知らない世界に飛ばされて、奴隷として暴力を振るわれた挙げ句売られるなんて。ここのところ文化祭の準備に受験勉強にと忙しくしていたし、かなりストレスを溜め込んでいたのかもしれない。
まったく、酷い悪夢だった。
だけど夢の最後だけは―――
「……ヤ、マーヤ、おーい、昼食も食い逃すぞ」
『昼食』の言葉に、眠りにつこうとしていた頭がピクリと反応する。
先ほどからスリスリと頬をくすぐる何かを払いのけながら薄く目を開けば、目の前には無愛想な顔があった。
「え? ここは……」
「ここは俺の屋敷で、昨日からマヤの家でもある。目は覚めたか?」
黒髪紅眼の厳めしい顔をした男が、ベッドに腰かけてこちらを覗き込んでいる。
そうだ。夢なんかじゃない。
私は実際に奴隷として売られて、この人に買われたんだ!
心地よいまどろみは弾け跳び、慌ててガバッと上体を起こす。
「勝手に寝てしまってすみません!」
記憶にあるのは風呂に浸かったところまでだけれど、今はダボダボなシャツを着せられている。
元はガルの半袖なのだろうシャツは、私が着ると七分袖ほどの長さがあった。
ダブつくシャツと沈み込むほどふかふかなマットに縺れながらわたわたとベッドを出ようとすると、両脇を持ってスポッと引き上げられた。
寝かせられていたのは昨日ガルの寝室で見た広いベッドの上だ。
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