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1~10話
3b、私は新しい家をわかっていない
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そういえば、たった今までこの人に担いで運ばれていたんだった。
気を失ったことを咎めるでもなく、怒鳴り付けるでも、水を浴びせかけて起こすでもなく。
その運び方は苦しかったけれど、今両脇を支えてくれている大きな手はとても温かい。
「自分で歩きます」
ガルは一瞬躊躇う様子を見せたものの、支えていた手を離してくれた。
私の隣に並ぶと、大きな手の平をそっと背中に添えて誘ってくれる。
ガルが退いた事で開けた視界の先には、大きな屋敷が広がっていた。
玄関では執事らしき人が大きな扉を開けて立っている。
振り返れば後方には、頑丈そうな鉄柵の門が見える。
ここが奴隷商館からどれほど離れているのかはわからないけれど、そんなに長く気を失っていたのか。
馬車に乗せられ運ばれても気付かないほど。
「お帰りなさいませ、旦那様」
「ああ。しばらく部屋に篭る。呼ぶまで誰も入れるな」
「かしこまりました」
執事はマントを受け取ると、私を見咎めることなく深く腰を折った。
恭しい執事の出迎えに、自分が話しかけられたわけではないけれどペコリと会釈を返しておく。
背中に添えられた手にやんわりと誘導されるまま、やわらかな絨毯の上を進み階段を上がった。
気を失ったことを咎めるでもなく、怒鳴り付けるでも、水を浴びせかけて起こすでもなく。
その運び方は苦しかったけれど、今両脇を支えてくれている大きな手はとても温かい。
「自分で歩きます」
ガルは一瞬躊躇う様子を見せたものの、支えていた手を離してくれた。
私の隣に並ぶと、大きな手の平をそっと背中に添えて誘ってくれる。
ガルが退いた事で開けた視界の先には、大きな屋敷が広がっていた。
玄関では執事らしき人が大きな扉を開けて立っている。
振り返れば後方には、頑丈そうな鉄柵の門が見える。
ここが奴隷商館からどれほど離れているのかはわからないけれど、そんなに長く気を失っていたのか。
馬車に乗せられ運ばれても気付かないほど。
「お帰りなさいませ、旦那様」
「ああ。しばらく部屋に篭る。呼ぶまで誰も入れるな」
「かしこまりました」
執事はマントを受け取ると、私を見咎めることなく深く腰を折った。
恭しい執事の出迎えに、自分が話しかけられたわけではないけれどペコリと会釈を返しておく。
背中に添えられた手にやんわりと誘導されるまま、やわらかな絨毯の上を進み階段を上がった。
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