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51~最終話

一にレッスン、二にレッスン【上】

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 マナーの先生によるレッスンが始まった。
 取り急ぎ婚約発表までに覚えることは三つ。
 挨拶と、食事の作法と、ダンス。

 その他はクロの側にいればどうにかなるだろうという判断だ。

「ということで、今日から食事は自分で食べます!」

「そんな……っ!」

 信じられない理不尽を突きつけられたかのようにショックを受けるクロはさておき。

 そもそも、元の大きさに戻ったのだから食べさせてもらう必要性はなかったのだ。昨日はクロが私を抱えたままどうしても放さないものだから、甘んじて受け入れたけども。

「実践を積まないと上達しないので! クロも特訓を応援してくれますよね!?」

「ああ、もちろんだ……。だが、俺の膝の上に座っておくくらいはいいんじゃないか?」

「…………」

「決して邪魔はしない。間近で見て、おかしな点があればすぐに伝えよう」

「ぐぬぬ……」

 二週間足らずという僅かな時間しかない自分にとって、食事の時間を活用して指導してもらえるというのは魅力的な申し出である。

「ちゃんと……チェックしてくれますか?」

「もちろん。さあ、ヒナの皿を俺の席へ移そう。――――おっと」

 倒れたワイングラスから零れた液体が、みるみる私の料理を赤紫に染めていく。

「すまない。すぐに新しいものを用意させる」

「えっ、今……」

 クロがわざとグラスを倒したように見えたけれど……って、そんなわけないか。
 そんなことをする理由がないのだから。

 「ワインがかかってても食べられますよ」という私の主張は却下され、呼び鈴でやってきた騎士たちによってすべての料理を下げられてしまった。







 レッスンのなかで一番楽しいのはダンスの時間だ。
 やはり私は身体を動かすほうが性に合っているらしい。

「ワン、ツー、スリー、ここでターン!  テンポが遅い! ツー、スリー、優雅に微笑んで! ワン、ツー、肘の高さはキープ!」

 ――全身つりそうだけれど。
 優雅さはともかく、持ち前の運動神経のおかげで形だけはなんとかなりつつある。

「ウルカノン先生、やっぱりヒールの高い靴だとバランスのほうに気を取られて、テンポが遅れそうになります」

 長年陸上に情熱を注いでいた弊害か、足元が不安定になると両手を縛られるくらいの不自由さを感じてしまう。
 そうするとどうしても意識の大半が足元に行ってしまい、音への反応が遅れるのだ。
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