107 / 165
31~40話
溺れる者は犯人をも掴む【下】
しおりを挟む
「だけど、そうしたらもうクロと一緒には……」
お城に入れば変化の魔法は打ち消される。
そうなれば、魔法で人間サイズになった私はもうクロの側にいられなくなってしまうだろう。
「何ものもヒナの命には代えられない」
「でも……」
「ん~、口述魔法だと微調整が利かないから、ぴったり元通りのサイズにするのは無理だと思うよぉ~」
「だが他に手段がないだろう! 取り急ぎ元の身体に近い大きさにさえなれれば、魂との懸隔は多少なりとも抑えられる。細かな調整については追って考えればいい」
「何度も変化させるのは負荷が大きいと思うけどなぁ。……それよりもぉ~、僕ならたぶん、戻せると思うんだけどぉ?」
「えっ!」
「本当か!?」
「魔法薬を使うのさ。あれなら細かい調整が利く。それからこれは推測だけどぉ、今回の場合は魂と器の『差異を解消する』ことになるから、城の結界は発動しないと思うんだよねぇ~」
「たしかに結界は、魂と器の『差異』に反応して魔法を打ち消す……。ならば今すぐ、人体構造に精通した研究員に薬を作らせよう!」
「はいは~い」
ミディルアードが高々と片手を挙げる。
歯牙にもかけず部屋を出ようとしたクロの背中に、さらなるアピールの声がかかった。
「解剖学と医学の知識もあって、ここで一番腕がいいって言ったら、僕しかいなくない~? 拡大倍率の調整ってかなりややこしい調合になるから、他の人間には作れるかどうかわからないなぁ~」
「…………」
「ここにちょうど、さっき計測した小さいののデータもあることだしぃ?」
「……先ほどからいやに協力的だが、何が狙いだ」
「妖精――――っと、ゔぇっ、ちょっ、魔力放出やめてぇ……! 可愛い冗談じゃないかぁ……」
「早く答えろ」
一瞬で部屋中を呑み込んだ温かさが、じりじりと引いていく。
「んもぅ、せっかちだなぁ~……。僕としてはねぇ、今回の件を不問にしてほしいのさぁ。投獄なんてされたら、実験器具も研究材料も取り上げられてな~んにもない部屋で過ごすんだよぉ!? もうカビの分類ときのこの繁殖には飽き飽きだよぉ~」
「……おまえの居た牢が惨状だと言われていた原因はそれか。――ヒナ、罪人はこう言っているが、ヒナはどうしたい? ここは一旦魔法薬を作らせておいて、完成後に処刑する手もある」
「聞こえてるんだけどぉ~」
クロの手のひらの上、居住まいを正してミディルアードに向き直る。
拐われたことを赦したわけではないけれど、自分の命のため、クロにこれ以上心配をかけないためにも、今は感情よりも優先すべきことがある。
「……拐われたことについては、不問でかまいません。どうか、魔法薬作りをお願いします……っ!」
「おっけぇ~」
お茶の誘いに応じるかのような軽い調子で、ミディルアードの協力が決まった。
お城に入れば変化の魔法は打ち消される。
そうなれば、魔法で人間サイズになった私はもうクロの側にいられなくなってしまうだろう。
「何ものもヒナの命には代えられない」
「でも……」
「ん~、口述魔法だと微調整が利かないから、ぴったり元通りのサイズにするのは無理だと思うよぉ~」
「だが他に手段がないだろう! 取り急ぎ元の身体に近い大きさにさえなれれば、魂との懸隔は多少なりとも抑えられる。細かな調整については追って考えればいい」
「何度も変化させるのは負荷が大きいと思うけどなぁ。……それよりもぉ~、僕ならたぶん、戻せると思うんだけどぉ?」
「えっ!」
「本当か!?」
「魔法薬を使うのさ。あれなら細かい調整が利く。それからこれは推測だけどぉ、今回の場合は魂と器の『差異を解消する』ことになるから、城の結界は発動しないと思うんだよねぇ~」
「たしかに結界は、魂と器の『差異』に反応して魔法を打ち消す……。ならば今すぐ、人体構造に精通した研究員に薬を作らせよう!」
「はいは~い」
ミディルアードが高々と片手を挙げる。
歯牙にもかけず部屋を出ようとしたクロの背中に、さらなるアピールの声がかかった。
「解剖学と医学の知識もあって、ここで一番腕がいいって言ったら、僕しかいなくない~? 拡大倍率の調整ってかなりややこしい調合になるから、他の人間には作れるかどうかわからないなぁ~」
「…………」
「ここにちょうど、さっき計測した小さいののデータもあることだしぃ?」
「……先ほどからいやに協力的だが、何が狙いだ」
「妖精――――っと、ゔぇっ、ちょっ、魔力放出やめてぇ……! 可愛い冗談じゃないかぁ……」
「早く答えろ」
一瞬で部屋中を呑み込んだ温かさが、じりじりと引いていく。
「んもぅ、せっかちだなぁ~……。僕としてはねぇ、今回の件を不問にしてほしいのさぁ。投獄なんてされたら、実験器具も研究材料も取り上げられてな~んにもない部屋で過ごすんだよぉ!? もうカビの分類ときのこの繁殖には飽き飽きだよぉ~」
「……おまえの居た牢が惨状だと言われていた原因はそれか。――ヒナ、罪人はこう言っているが、ヒナはどうしたい? ここは一旦魔法薬を作らせておいて、完成後に処刑する手もある」
「聞こえてるんだけどぉ~」
クロの手のひらの上、居住まいを正してミディルアードに向き直る。
拐われたことを赦したわけではないけれど、自分の命のため、クロにこれ以上心配をかけないためにも、今は感情よりも優先すべきことがある。
「……拐われたことについては、不問でかまいません。どうか、魔法薬作りをお願いします……っ!」
「おっけぇ~」
お茶の誘いに応じるかのような軽い調子で、ミディルアードの協力が決まった。
53
あなたにおすすめの小説
【完結】タジタジ騎士公爵様は妖精を溺愛する
雨香
恋愛
【完結済】美醜の感覚のズレた異世界に落ちたリリがスパダリイケメン達に溺愛されていく。
ヒーロー大好きな主人公と、どう受け止めていいかわからないヒーローのもだもだ話です。
「シェイド様、大好き!!」
「〜〜〜〜っっっ!!???」
逆ハーレム風の過保護な溺愛を楽しんで頂ければ。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした
鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、
幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。
アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。
すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。
☆他投稿サイトにも掲載しています。
☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。
次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。
そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。
お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。
挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに…
意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いしますm(__)m
捕まり癒やされし異世界
波間柏
恋愛
飲んでものまれるな。
飲まれて異世界に飛んでしまい手遅れだが、そう固く決意した大学生 野々村 未来の異世界生活。
異世界から来た者は何か能力をもつはずが、彼女は何もなかった。ただ、とある声を聞き閃いた。
「これ、売れる」と。
自分の中では砂糖多めなお話です。
結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた
夏菜しの
恋愛
幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。
彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。
そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。
彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。
いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。
のらりくらりと躱すがもう限界。
いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。
彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。
これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?
エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。
異世界に行った、そのあとで。
神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。
ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。
当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。
おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。
いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。
『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』
そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。
そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる