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31~40話

全エネルギーを使い果たした【中】

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「私はね、一国の王として国の未来を想うと同時に、一人の父親として息子の幸せを願っているんだよ。ある令嬢との一件以降すっかり結婚を諦めてしまった息子にも、心を預け、互いを大切に思い合える相手を見つけてほしかったんだ。――守りたいものができて初めて、人は強くなれるからね」

 ゆったりと穏やかな口調が心を撫でる。

「少しばかり女性心にうといきらいがあるが、人の心のわからない人間ではない。なかなかいい男に育ったと思っているが、ヒナ嬢の目から見てどうかな?」

「……本当に……すごく素敵な人だと思います」

 日頃から思っていることを口にしただけなのに、なぜかじわりと頬に熱が集まってくる。
 私の返事に、王様はにっこりと笑みを深めた。

「そんな息子の選んだ相手だ。ヒナ嬢も、素敵なレディーだと確信しているよ」





 来たときよりも軽くなった心を胸に、クロのポケットに収まって王様の寝室を出る。
 私の移動用に『輿こし』のようなものを用意してはどうかという話も出たけれど、それに関してはどうにか遠慮したいところだ。

「――これはこれは王太子殿下」

 声のした方を振り返れば、妙に偉そうな初老の男性と小学一年生くらいの少年が、従者を伴ってこちらに歩いてくるところだった。
 まだ幼児特有のぷっくり感を残した少年は、やわらかそうな茶色い巻き毛が歩くたびにふわふわと揺れて、天使のように愛らしい。

「珍しい所でお会いしますな。陛下に何か御用でもおありでしたかな?」

「用がなければ父親の見舞いに来てはならないとでも? ……ネラウェル、またバーグ卿に遊んでもらっていたのか」

「遊びじゃありませんっ!」

 ネラウェルと呼ばれた少年は、怒ったようにそう言って男性の脚の後ろに隠れてしまった。
 くりくりしたアメジストの瞳を吊り上げ、『嫌いだ』と言わんばかりにクロを睨む。
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