上 下
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31~40話

全エネルギーを使い果たした【上】

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「ヒナ嬢はどうだろう?」

「ふぇい!?」

 輪郭、目元、眉の形……。すっかり蚊帳の外と油断して、話し合う二人の『似ている箇所探し』をしていた私は、唐突に水を向けられて飛び上がった。

 鋭さを消した優しい瞳が私を映す。

「クローヴェルを憎からず思ってくれているからこそ、この場に同席してくれたのだと考えてしまうのは……親の欲目かな?」

 王様は内緒話でもするようにそう言って、悪戯っぽく目を細める。

「それは……」

 『運命の相手』だと紹介されることの意味が、わからないほどおろかではない。
 いくら指輪を変色させた後ろめたさがあったとはいえ、どうしても避けたければ紹介を断ることだってできたはずだ。
 嫌がるものを無理強いしたり、それで怒ったりする人ではないと知っているから。

 それでもこの場について来たのは――――
 誰にもこの場所を、譲りたくなかったからだ。

「…………私でも、大丈夫でしょうか……」

 シワの刻まれた目元。
 何もかもお見通しのようでいて、けれど私の考えを受け止めようと見守ってくれる、優しい眼差し。
 その瞳の温かさがどうしようもなくおじいちゃんと重なって、つい弱気な心が洩れた。

「こんな大きさで……この国のことも、常識も、何一つわからなくて。貴族令嬢に求められるような教養もないですし、美人なわけでも、飛び抜けた才能があるわけでもありません。それに……」

 クロが愛しているのは、『小さくて可愛い』私なのに。

 俯いて下を向いた口からは、重力に吸い込まれるようにポロポロと弱音が零れていく。

「私のように魔力干渉を受けない体質の人だって、探せばいるかもしれません。それこそもっと、クロと釣り合いのとれた人が……」

 そこに答えでも書いてあるかのように、じっとドレスの裾を見つめる。
 もし私の気持ちが恋愛感情だったところで、クロを取り巻く環境がそれを許さないのではと思う。

「……そうだな。教養高い者も、容姿端麗な者も、芸に秀でた者も、あるいはそのすべてを持った者もいるだろう」

「はい……」

 その言葉に、浮かぶ姿は。

「だが、クローヴェルと寄り添い、共に生を歩める者は君しかいない」

 パッと上げた視線の先で、王様は困ったように眉尻を下げて微笑んだ。
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