ちっちゃくて可愛いものがお好きですか。そうですかそうですか。もう十分わかったので放してもらっていいですか。

南田 此仁

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21~30話

私はそれを知っている【上】

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 手早く『クリーン』をかけて寝衣に着替えたクロと共にベッドに入る。
 クロの胸筋の谷間に収まってもぞもぞと体勢を整えていると、大きな手のひらが優しくポンポンと私を撫でた。

「先ほど言いそびれたが、夜会に関してヒナが考えているようなことは何もないから安心してほしい」

「…………出逢いとか?」

「ないな」

「女の人とダンスしたりは……?」

 何度も思い浮かべた光景が再び胸を焼くより先に、クロが答えた。

「しないな。令嬢たちは皆、俺を避けて通る」

 ダンスの相手がいないことに一瞬安心してしまったものの、今度は逆に令嬢たちの態度へ不満が募ってくる。

「避けるなんて……! クロの魔力量が多いからですか!?」

「魔力量も一因ではあるが、俺の無配慮が招いた結果だ。……もう十年も前になるか。面白い話ではないが、聞いてくれるか?」

「もちろんです!」

 身体の上に置かれた手を手繰たぐり寄せ、ぎゅっと親指を抱きしめる。
 不安げに声を沈めたクロに、私がついていると伝えるために。

「……十九だった俺には当時、婚約者候補がいたんだ。俺の膨大な魔力量をかんがみて選ばれた相手は、貴族のなかでも高い魔力量を誇る三大公爵家唯一の令嬢。年若い女性のなかでは抜きん出て強い魔力を有していた」

 『婚約者候補』という言葉にザラリと心が毛羽立つけれど、じっと話に耳を傾ける。

「相手が十五歳のデビュー成人を迎えると、俺は当然の義務としてダンスを申し込んだ。それまでにも数回お茶を共にしたことがあったから、俺はすっかり油断していたんだ。――側に寄れば寄るほど、触れればさらに強く、魔力干渉が起こることは知っていたのに」

 クロの声に隠しきれない後悔の色が滲む。

「俺は目の前の相手が魔力酔いを起こしていることにも気付かず、呑気のんきにダンスを続けた。――その結果、相手はダンスの途中で悪心おしんに耐えきれなくなってしまったんだ」
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