ちっちゃくて可愛いものがお好きですか。そうですかそうですか。もう十分わかったので放してもらっていいですか。

南田 此仁

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21~30話

怪我のチェックもほどほどに【下】

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 ヤシュームが退室したのを見届けて、私もクロの陰から出る。

「お仕事するんですか?」

「そのつもりだ。すまない、ヒナには退屈な思いをさせてしまうと思うが……」

「私のことは大丈夫ですよ。ただ、安静第一ですから、くれぐれも無茶はしないでくださいね!?」

 ビシッと指を突きつけて釘を刺せば、クロも神妙な顔で頷いてくれた。

「ああ――ヒナを泣かせたくはないからな」


 仕事に打ち込むクロの手元をじっと見つめる。
 書類をめくる左手や、羽根ペンを走らせる右手……に触れていては邪魔だろう。

 少し考え、上体を起こしたクロの腰元まで掛かった布団へと潜り込んだ。
 ゴソゴソと目的地を目指して内部を進む。

「ヒナ!? 何をしているんだ……?」

 クロの寝衣の裾から忍び込んだ私は下穿きの布の上を進み、一方の太ももに跨がって腰を下ろすと、素肌の腹筋にピトリとへばりついた。
 クロが少しでも安静に過ごせるよう、肌に触れて魔力を吸収しておくのだ。

「私のことはお構いなく!」

「いや、しかし……」

 うんうん、これで心置きなく仕事に集中してもらえるはず!



 夕食が運び込まれてクロの寝衣から出ると、クロはずいぶんと疲れたような顔をしていた。

「やっぱり! 怪我したばかりなのに仕事なんてするから、ゲッソリしちゃってるじゃないですか!」

「………………そうだな」

 無茶は禁物だと言っておいたのに、まったくもう!

 私が自分でやると言うのも聞かずせっせと料理を切り分けたクロは、いつも通り私を左手に抱き上げた。
 しかしこれでは、クロが怪我をした右腕だけで食事をとることになってしまう。

「あの……肩の怪我は痛みませんか?」

「ああ、すっかり元通りになっている。痛みも違和感もないから安心してくれ」

「でも私、自分で食べられますよ……?」

 私の言葉を聞いたクロは、残念な宣告でもするかのように目を閉じて首を振った。

「それでは治るものも治らなくなる」

 すっかり治ったと言っていたはずでは……。




 食後にもまた少し仕事をして、お風呂の時間になった。
 湯船に浸かるクロに、改めて抱っこをせがむ。

「右肩が見える位置まで抱っこしてください!」

 左手のひらに乗せてもらいクロの右肩へと接近した私は、肩先から首元までぺたぺたと触れて確かめた。

「本当に傷がない……」

 ついでに周辺も入念に確認する。
 大きな怪我に気をとられ、小さな傷を見落としているかもしれないので。

 ぺたぺた……
 ぺたぺた……

「…………ヒナ、もうそれくらいでいいだろう」

 声をかけられハッと気付くと、息がかかりそうな距離にクロの顔があった。
 私はいつの間にやら両手でクロの顔を抱え込んで、顔の傷をチェックしていたらしい。

「あっ、ごめんなさい。つい夢中になっちゃって」

「それは構わないんだが……少々問題が生じてな……」

「問題?」

 もしや痛みがぶり返してしまったのだろうか?
 クロが無言で視線を落とすものだから、私も釣られて下を見る。

 湯面から覗く盛り上がった胸筋、お湯の中に見えるボコボコと割れた腹筋、そして――――。

「なっ……」

 真っ直ぐ天を向いてそそり立ったソレと、ばっちり目が合った。
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