ちっちゃくて可愛いものがお好きですか。そうですかそうですか。もう十分わかったので放してもらっていいですか。

南田 此仁

文字の大きさ
上 下
58 / 165
21~30話

シャバダバダ【下】

しおりを挟む
「俺も少々体を動かす。ここは向こうから死角になっているので大丈夫だと思うが、ヒナもあまり離れないように気をつけてくれ」

「はーい。――あ、さっきから飛んでるあの怪鳥は襲ってきませんか?」

「あれは果物しか食べないから大丈夫だ。他にも、もし何かあればすぐに大声で呼ぶんだぞ」

「はーい」

「その辺の木の実や得体の知れないキノコは食べないように」

「はーい」

「知らない人に声をかけられてもついていかないように」

「はーい」

「地面には小石もあるから転ばな――」

「わかりました! わかりましたから、ほらっ! 運動してきてどーぞっ!」

 クロは上着を脱いでベンチに置くと、訓練場から持ってきた木剣を手に、で運動を始めた。
 この距離を離れるだけで、よくあそこまで心配できたものである。

 軽いストレッチを終えたクロは、木剣を構えると風切り音を立てながら素振りしたり、地面に垂直に立てられた丸太に打ち込んだり。

 ベンチに座ってしばし興味深くクロを眺めていた私も、思い立ってするするとベンチを下りた。
 押し固められた土の地面は、日の温かさを移しながらもひんやりと素足の熱を奪って心地良い。

 ぺたぺたとベンチの周囲を歩き回って適当なサイズの小枝を拾い上げると、クロを眺めつつ見よう見まねで素振りを始めた。


 ちらちらとこちらを気にかけていたクロが口元を押さえてうち震えているけれど、気にしたら負けだ。
 お手本なのだからちゃんと素振りしていていただきたい。


 そうしてしばらくの間、各々自由に過ごしていた――のだけれど。

「んぎゃーっ! ミミズ!! クロっ! クロ抱っこ! 早く早く!!」

 小枝を投げ捨て猛ダッシュでクロの元まで駆け寄った私は、両腕を上げてぴょんぴょんと飛び跳ねる。

「ヒナは走るのが速いんだな」

「いいから抱っこ!」

 屈んだクロが差し出してくれた手のひらにわたわたと乗り上げる。

 まさか土の中にあんな伏兵が潜んでいようとは……!
 警戒すべきは空だけではなかったのだ!

「ヒナは虫が苦手なのか?」

 その言葉に、今しがた対峙した私の背丈ほどもある長さの巨大ミミズを思い浮かべ――

「あの大きさは無理っ!!」

 ひしと自分を抱きしめて背筋を震わせた。
しおりを挟む
感想 36

あなたにおすすめの小説

騎士団寮のシングルマザー

古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。 突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。 しかし、目を覚ますとそこは森の中。 異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる! ……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!? ※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。 ※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。

airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。 どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。 2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。 ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。 あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて… あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

責任を取らなくていいので溺愛しないでください

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
漆黒騎士団の女騎士であるシャンテルは任務の途中で一人の男にまんまと美味しくいただかれてしまった。どうやらその男は以前から彼女を狙っていたらしい。 だが任務のため、そんなことにはお構いなしのシャンテル。むしろ邪魔。その男から逃げながら任務をこなす日々。だが、その男の正体に気づいたとき――。 ※2023.6.14:アルファポリスノーチェブックスより書籍化されました。 ※ノーチェ作品の何かをレンタルしますと特別番外編(鍵付き)がお読みいただけます。

面倒くさがりやの異世界人〜微妙な美醜逆転世界で〜

波間柏
恋愛
 仕事帰り電車で寝ていた雅は、目が覚めたら満天の夜空が広がる場所にいた。目の前には、やたら美形な青年が騒いでいる。どうしたもんか。面倒くさいが口癖の主人公の異世界生活。 短編ではありませんが短めです。 別視点あり

【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした

楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。 仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。 ◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪ ◇全三話予約投稿済みです

辺境の侯爵家に嫁いだ引きこもり令嬢は愛される

狭山雪菜
恋愛
ソフィア・ヒルは、病弱だったために社交界デビューもすませておらず、引きこもり生活を送っていた。 ある時ソフィアに舞い降りたのは、キース・ムール侯爵との縁談の話。 ソフィアの状況を見て、嫁に来いと言う話に興味をそそられ、馬車で5日間かけて彼の元へと向かうとーー この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。また、短編集〜リクエストと30日記念〜でも、続編を収録してます。

処理中です...