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11~20話

クロも食べ物ではありません(はい【下】

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 執務室に戻るクロを見送ると、くるりときびすを返し一目散にドールハウスに駆け込んだ。

「トイレ、トイレっ!」






 頬を撫でる心地良いそよ風。
 大きく息を吸い込めば、草花の香りを含んだ新鮮な空気が肺を満たす。

「あまり身を乗り出すと落ちてしまうぞ」

「はーい」

 大きな手のひらがポケットの外側から支えるように私を包む。

 昼食を終えたあと「気分転換がてら体を動かしに行くが、ヒナも来るか?」との誘いに諸手を挙げて応じた私は、クロに連れられ庭に来ていた。
 この世界に来て初めての屋外だ。

 迷いなく歩を進めるクロのポケットの中で、キョロキョロと周囲を観察する。
 色とりどりの花が咲き乱れる花壇に、動物型に刈り込まれたトピアリー。噴水、オブジェ、向こうに見えるのは東屋ガゼボ
 一体この庭はどれほどの広さがあるのだろう。

 さんさんと降り注ぐ日差しがふと陰って上を見上げれば、毒々しい赤紫色をした巨大な怪鳥が上空を旋回せんかいしていた。

「グギョーロロロロロロ」

 響き渡る恐ろしい鳴き声に、ポケットの縁を握りしめて首をすくめる。
 もしも見つかったら、私なんてひと飲みにされてしまいそうだ。

 段々と周囲の飾り気がなくなっていき、だだっ広い広場のような場所に差し掛かると、向かう先から号令や掛け声のような雄々しい声が聞こえてきた。
 よくよく目を凝らせば、剣を素振りしている人にランニングしている人、試合をしている人も見える。
 どうやらこの先は訓練場のようだ。

「ここは人が多い。しっかり隠れていてくれ」

「はい!」

 周囲の観察はおしまいにして、すぽんと頭までポケットの中に収まる。
 訓練場の一角へと歩を進めていたクロが、何かに気付いたようにぴたりと足を止めた。

 どうしたのだろうと見上げると、一拍遅れて進行方向から呼びかける声があった。

「クローヴェル~! ちょうどいい所に来たねぇ!」

「……げっ」
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