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11~20話

酒は飲んれも飲まれるら【下】

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「んぉっとと」

 ぽすっ

 足をもつれさせてよろけた私を、大きな手のひらが受け止めてくれる。

「階段で転んでは危険だ。部屋をも構わなければ、直接部屋まで送り届けるが……」

「らいじょーぶ、らいじょーぶ! かいらん階段には手すりもあるのれ」

「しかし……」

「おいしーお食事と、『クリーン』も、ありがとぉございました! それじゃ、おやすみなふぁぁ~……い」

 クロの親指とぶんぶん握手して感謝を伝えると、心配そうな眼差しに手を振ってふらりと玄関扉をくぐった。


「うーんしょ、こーらしょっ」

 手すりをたぐり寄せるようにしながらなんとか階段を上り、拠点にしている部屋を目指す。

 食事もお酒も美味しかったし、クロの手のひらに乗っていると絶えず流れ込む魔力によって、ぬるめの温泉に浸かっているような心地よさがある。
 なにより、誰かとおしゃべりしながら食事をとるのなんておじいちゃんが生きていたとき以来だ。
 とてもとても楽しい時間だった。また誘ってもらえるだろうか。

 ガパッ

「たらいまー!」

 ふわふわと上機嫌で入室しようと踏み出した足先が、ゴキッと鈍い音を立ててドア枠にはばまれた。

 い゛っ〰〰〰〰!!」

 したたかに打ち付けた左足の小指を押さえ、うずくまって悶絶する。

 痛い。
 すごく痛い。
 そう、――――『痛い』

「やっぱり……『夢』じゃない……」

 わかってた。薄々気付いてはいた。
 もしかしたらここは、『夢の中』でないのではないかと。

 走れば息が上がって、驚けば鼓動が跳ねて、空腹感も尿意もある、異様にリアルなが。

 けれど認めてしまうの恐ろしくて……ずっと、見て見ぬふりをしていたのだ。

 一縷いちるの望みをかけて、ぎりりと頬をつねってみる。

「いひゃい……」

 うん、知ってた。

 ぶつけた小指は痛むわ、信じがたい現実を突きつけられるわ、そのうえつねった頬まで痛い。
 もう踏んだり蹴ったりである。

 『世界』との繋がりが希薄になったと思った途端、まさか別の世界に放り出されてしまうなんて。
 そんなにも私は、元の世界にとって不要物だったのだろうか……。

「うぅ……痛いよぅ…………」

 込み上げる涙は『痛み』のせい。
 たくわえきれなくなった涙が、じんじんと痛む頬を伝ってぽろりと落ちた。
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