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11~20話

『ノー』と言えるお腹【上】

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 ドールハウス前に寄せられた手が止まる。

「俺は仕事に戻るが……ヒナ、本当に――」

「どこにも行きませんってば!」

「しかし……」

「んもーっ、いい加減降ろしてください! ちゃんとここで待ってますから!」

 ぺしぺしとクロの手のひらを叩き、ようやくドールハウスの乗る飾り棚に降り立った。

 心配しなくても、こちら側からは見えている『ドア』だってノブには手が届かないし、仮に開けられたところでどこにも行くあてなんてないのだ。

「待っていてくれるのか……?」

「はい、また休憩のときにお手伝いしますね。!」

「……ああ。いってくる」

 名残惜しそうな視線を断ち切るように大きく手を振れば、クロは未練を引きずりながらも執務室へと戻っていった。


「――さてと!」

 ドールハウスの手前には『クリーン』で綺麗になったティーカップが二つ。
 一つにはたっぷり水が注がれていて、もう一つは使った水の排水用にと置いてくれた。
 カップに排水するのは忍びないけれど、追って別の器を用意してくれるというので、それまではありがたくカップを使わせてもらうことにする。

 さっそく厨房からやかんを拝借して玄関前に引き返すと、腰の高さほどのティーカップからやかんで直接水をすくって厨房へと戻った。

「ふんふふ~ん♪」

 やかんを火にかけているあいだに館内を巡り、洗面器とタオルを調達する。
 念のためぐるりと見渡して厨房に窓がないことを確認した私は、その場でガバッと服を脱いだ。

 洗面器にお湯を注いでタオルを浸す。

「あちちっ。まあ、ちょっと熱いくらいのがいいよね」

 両手で摘まみあげたタオルを軽く振るって冷まし、ぎゅっと絞って水気を切る。
 ねじれたタオルを広げると、ぱふんと顔面に被せた。

「ふぃー……」

 しばしじんわりと染み渡る蒸気を楽しんでから、顔面を拭う。

 顔、首、肩、腕……。

 ときおりお湯に浸して温めなおしつつ、濡れタオルで全身を拭きあげていった。

「ふぅー、さっっっぱりしたぁー!」

 乾いたタオルで乾拭からぶきして、風邪を引かないうちにさっさと元の服を着込む。
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