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1~10話

ブドウ味のブドウ【上】

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「おわっ、とと」

 想像以上に弾力のある座面に弾き飛ばされそうになって、慌てて全身でへばりつく。
 そのまま角まで這っていくと、レリーフ装飾を足掛かりにしながら椅子の脚を下りた。

 やわらかな絨毯にふやふやと足を取られつつ、なんとかローテーブルのふもとにたどり着く。
 見上げた天板までの高さは、私の身長の二倍程度。先ほど下りた椅子の座面よりも低い。

 椅子のとき同様、脚に施されたレリーフの凹凸に手をかける。

「よっ。ボルダリングのコツは、支持……っと!」

 友人に誘われ興味本位で参加したボルダリング経験が、まさかこんなところで役立つとは。
 インストラクターに教わった基礎を思い浮かべながら、しっかりと腰を落とし、手足のいずれかが触れている状態を維持しながら登っていく。
 腕が半周する太さの柱は、ボルダリングの壁よりも登りやすいくらいだ。

 さして高さのないローテーブル登りは、あっけなく頂上に到達して終わった。

「ふぅ……。さーて、フルーツフルーツ♪」

 弾む足取りで天板を進み、胸ほどの高さの高台皿によじ登る。

「うわぁ……!」

 見渡せば、視界いっぱいに広がる色とりどりのフルーツ。
 幾層にも混ざり合った甘酸っぱい香りがふわんと全身を包み込む。

「まさに、フルーツパラダイス……!」

 楽園はここにあったのだ!

 こうなると全種類味見してみたくてウズウズするけれど、一応これは家主の所有物なので自重しておく。

「んー、どれにしようかなー」

 皿の縁に沿っててくてくと歩きながら、盛られたフルーツを吟味する。
 オレンジは分厚い皮を剥くのが大変そうだし、リンゴはつるりと平らな壁のようで噛りつける気がしない。パイナップルなど言わずもがな。
 他にもいくつか見知らぬフルーツが乗っているけれど……サイズから考えても、やはりここはブドウが適当だろう。

 バスケットボールよりも一回り大きなブドウの粒を両手で抱えると、えいっと力を込めて軸からもぎ取った。

「ん~、いい香り~」

 込み上げてくる唾液を飲み込んで、高台皿からぴょいと飛び降りる。
 これを抱えたまま椅子をよじ登ることはできないので、ここで食べていくよりほかない。

 私の背丈以上もある果物ナイフを大きく迂回して、平皿の隣にぺたんと座り込んだ。

「いっただっきまーす!」

 ぺろりといだ皮を皿の上によけ、甘い香りを放つ瑞々しい果肉にかぶり付く。

 はぶっ

「ん……、んん……っ! あっまーーーい!!」

 噛みついた果肉から弾けるように、ジュワッと果汁があふれ出す。
 香り高く、ぎゅっと味が凝縮されていて、なのにくどくない上品な甘味。

 今まで食べたブドウのなかで、文句なしに一番美味しい。

「これがパワー……!」

 瞳を輝かせながら、二口、三口とかぶり付く。
 夢の中の御馳走が、こんなにも美味しいものだったなんて!
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