一目惚れの理由がおかしくありませんこと!?

南田 此仁

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それにしても一目惚れの理由がおかしくありませんこと!?【後編】

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 テーブルクロスの内側。
 薄暗いその空間に、ギラリと光る双眸があった。

『なっ——ハルド様!? どうしてそんな所に!!?』

 ヒソヒソ声で問い立てれば、ハルドも困ったように眉尻を下げる。

『咄嗟に隠れたつもりだったのですが、場所が悪かったようですね……』

 申し訳なさそうな様子からして、意図的に足元に潜んだわけではないらしい。

 だからといってなぜそんな場所に————いや。よくよく思い返してみれば、私はハルドに『隠れて』としか伝えていない。
 理由も、目的も、従姉妹たちとこの場でお茶をする可能性があることも、何一つ説明していなかったのだ。

 そんなハルドが咄嗟に身を隠す場所として目の前にあったテーブルを選んだからといって、どうして責められようか。
 否、責められるべきは私の迂闊さである。

「なんてこと……」

「ミリア、テーブルの下がどうかして? クッキーでも落としたの?」

「いえっ、いいえっ、エレノアお姉様! 全然なんにも、一欠片だって落としてないわ! ちょっと目——めくれてないか! そう、スカートがめくれてないか確認していたの!」

 即座にテーブルクロスを閉じてシャキッと背筋を正し、動揺の上からしっかりと笑みを貼りつける。

「そう? それならいいけれど……。ねえ、このお茶とクッキーをくださったのって、さっき言っていた叔父様の同僚の方?」

「え、ええ」

 ハルド客人のことが話題に上がってギクリと笑顔が強張る。

「いいわねぇー。王城勤めだと、やっぱり人気店にも顔が利くのかしら? あーぁ、うちのお父様も王城勤めだったらよかったのに!」

「まあ、ユリアナったら。でもそうね、そうなったらわたくしはマダムミューのドレスをおねだりするわ」

「お姉様ずるい! わたしもわたしも!」

「か、顔が利くかどうかは人によるんじゃないかしら」

 従姉妹たちに笑顔で応じながらも、じわりと嫌な汗が滲むのを感じる。

 どうしよう。
 一杯目を飲み終えたらすぐにでも憚りに向かうつもりだったのに、こんな状況では席を外すわけにもいかなくなってしまった。

 万が一、私が席を外しているあいだにハルドが見つかったら?

 私との恋愛沙汰にこじつけて、きゃあきゃあと騒ぎ立てられるだけならまだいい。
 恐ろしいのは、『覗きをくわだてたれ者』としてハルドが汚名を着せられてしまうことだ。
 そんなことになればハルドの騎士生命に関わる。

 どうしよう。どうしよう。
 尿意だって、もう我慢の限界なのに。
 こんなことなら変に隠さず堂々と紹介しておくんだった——!

 後悔したところで事態が好転するわけもなく、内ももに渾身の力を込めて、ひたすらぎゅぅぅっと膝を閉じ合わせる。

 ええと、私が二人を散歩に誘ってこの場から離れて、そのあいだにハルドを……。
 ——ううん、やっぱり無理。
 今立ち上がったりなんてしたら、その瞬間に粗相をしてしまう。

 そんな決壊寸前のスカートの内側に、ズボッとが入り込んだ。

「えっ」

 いいや、『何か』ではない。
 テーブルの下にハルドしかいないことはわかりきっている。

 それでもまさか、そんなことをする人間がいるはずはないと、現実味のなさに理解が遅れる。

 その間にもハルドの両手は探るように太ももを這いあがり、手探りでドロワースの腰紐を解き。
 縁に手をかけたかと思えば——

「待っ——!」

 小刻みに揺れる腰も、固く閉じ合わせた膝も、ものともせず。
 ズルッと一息にドロワースが引き下ろされた。

「ん? ミリア、何か言った?」

「いっ、いえ、何も!」

 誤魔化しを優先し、ハルドへの抗議をしそびれる。

 下着が擦れる感触ですら、ギリギリ保っている表面張力の上をツンと突つかれるようなものなのに……!

「ミリア、なんだか今日はおかしくない?」

「そ、そんなこと……。私ならいつも通りよ」

 何が起こっているのだろう?
 これはどういう状況なのだろう??

 テーブルの上では従姉妹たちと笑顔でお茶をしながら、テーブルの下では下着を脱がされ下半身を露出している。

 スカート内に潜伏するハルドはさらに私の両膝に手をかけると、あろうことか固く閉じ合わせた膝をガパッと左右に割り開いた。

「やっ——」

 ダメ! 今は本当に——!!
 必死に力を込めて耐えていた秘部が開かれ、唐突な動作と驚きに、ふっと筋肉が弛緩する。

 ダメ、ダメダメダメ————っ!

 固く閉ざしていた門が決壊し、じゅわりとあふれ出す感覚。
 追いすがるように再び力を込めてみても、押し寄せる奔流を抑えることはできない。

 ザァッと血の気が引く。
 従姉妹を前にあるまじき醜態を覚悟した瞬間、秘部全体がひたりと何かに覆われた。

「!?」

 熱くやわらかな感触が秘部を包む。
 しかし感触の正体を推理している余裕はない。
 どんなに力を込めようと、一度決壊した門からはじゅわじゅわと奔流があふれ出していく。

「王城勤めなら、にもお会いできるのかしら?」

「——!」

 従姉妹の言葉に緊張が走る。
 そんな私を宥めるかのように、にゅるりと、優しい感触が秘裂を撫でた。

 これは……以前、庭で拭いてもらったときに感じたのと同じ……?

 もしかしたらハルドは、私の粗相をハンカチで拭き取ってくれているのだろうか。
 時折『覆い』をグッと押しつけるようにしながら、にゅるり、にゅるりと、まるで安心していいとでも言うようにやわらかな熱が秘裂を辿る。

 ぞくぞくと痺れるような感覚がして、意識が薄まるようにふっと強張りがとける。
 ダメ、ダメなのに、もう我慢できない……。

 必死に抑え込みながらじゅわじゅわと滲ませていた奔流は、抑止力を失って勢いよく噴き出した。


 ぷっしょあぁぁぁぁぁ……

 …………グッ、……グッ、……グッ、


 規則的に『覆い』を押しつけられる感覚。
 ドレスが濡れる感触も、脚に水が伝う感触もなく、放水はどこに消えているのだろう。

 ……もしかして、革袋か何かを押し当てて受け止めてくれているだろうか。

「鉄壁の騎士様って、あれほど容姿も能力も優れていらっしゃるのに、それを鼻にかけないお優しい方だそうよ」

「そっ、そう。それは素敵ね」

 その鉄壁の騎士様なら、今私のスカートの中にいる。

 どうしてこんなことになったのだろう。
 うっとりと語る従姉妹に笑顔で相槌あいづちを打ちながら、テーブルの下では大きく脚を開かされ、止まらない奔流をハルドに向けて放っている。


 しょあぁぁぁぁぁぁ……

 ……グッ、……グッ、……グッ、


「ミリアは叔父様に届け物をしたりするでしょう? 鉄壁の騎士様にお会いしたことはないの?」

「え、ええと……」

 まさかスカートの中にいると言うわけにもいくまい。

「わたし、デビュタントボールのときにお見かけしたわ! ねえ、ミリアも見たでしょう?」

 二人の視線が注目するように私に向けられる。

「あっ、ええ! わたくしも、デビュタントボールでお見かけしたのが初めてだわ!」

 暖かな日差しの元で、お茶を囲みながら。
 テーブルの下で用を足している姿を、しっかりと従姉妹たちに見られているなんて……。


 しょぁぁぁぁ…………

 ……グッ、…………グッ、…………


 奔流が止むと、最後の一滴まで残すまいとばかりにジュッと吸いあげられた。

「——んっ!」

 革袋に、吸われた……??

 排泄を終えたあとは、再びハンカチでにゅるり、にゅるり、と秘部を清められる。

 拭いてくれるのはありがたいのだけれど……。
 秘裂を辿られるたび、ぞくぞくする痺れと同時に、消えたはずの尿意が甦るようなソワソワとした居たたまれなさが込みあげてくる。

「んぅ……、ふっ……」

「ミリア、大丈夫!? あなた顔が真っ赤よ!」

「だいじょ……ぶ……」

「そんなわけないでしょう! 体調が優れないせいで、今日はずっとおかしかったのね? すぐに気付いてあげられなくてごめんなさい。今使用人を呼んでくるわ。わたくしたちはそのままおいとまするから、あなたはここで待っていて!」

 年長者としての責任感を抱くエレノアに告げられ、お言葉に甘えてコクリと頷きを返す。

「急に押しかけてごめんなさいね」

「早くよくなってね」

「ええ、ありがとう。またいつでも来てね」

 優しい気遣いにツキツキと罪悪感を覚えながら従姉妹たちを見送り、テラスに一人残された。



「……ハルド様、もう出てきて大丈夫です」

 律儀にドロワースを穿かせなおしてくれていたハルドが、ぬっと足元から姿を現す。

「なんとかバレずに済んだようですね」

「はい。——あの、先ほどはありがとうございました。おかげで従姉妹たちに醜態を晒さずに済みましたわ。なんとお礼をしたらいいか……」

「あなたはいつでも魅力的ですよ」

 目の前で粗相をしてしまったというのに。
 窮地を救ってくれたハルドの優しい言葉がじわりと染みて、スンと鼻をすする。

「お礼と言うのなら、そうですね……。近いうちにデートにお誘いしてもよろしいでしょうか?」

「ええ。慎んでお受けしますわ」

 従姉妹が呼んでくれたのだろう、パタパタと慌てたようなメイド足音が近づいてくる。

「あの……お茶の続きにいたしましょうか?」

「いいえ、喉は十分にので。あまり長居をしても悪いですから、本日はこれで失礼します。——ごちそうさま」

 ハルドはそう言って、やって来たメイドと入れ替わるようにテラスを後にした。



 それにしても、たっぷりと膨らんだはずの革袋は一体どこに隠し持っていたのだろう?
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