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第一章
拐われ
しおりを挟むいつまで眠っていただろうか。目の前は真っ暗で、何も見えない。
手も縛られているみたいで、自由に動かない。
ルミエールは、街に買い出しに出掛け。そこで、お店に来ていた男性三人組が路地裏で子供を拐おうとしている所を見てしまった。子供が口を動かしているが、声が聞こえない。だからなのか、周りの人達も気づかずに通り過ぎてしまっていた。
ルミエールは、子供に駆け寄り。庇うように抱き締めた。一人で行くのではなく、誰かに知らせる事だって出来た。耳飾りに魔力を込め、ブランに助けを求める事だって出来た。だが、そんな事をしている間に子供は連れ去られてしまう。そう思うと、ルミエールの体は動いていた。
耳飾りの防御魔法が発動し、ルミエールと子供を守る。一人の男性が吹き飛ばされたのを見て、近づけない事が分かると少し離れた場所から攻撃してきた。この三人組は、人族だが魔法が使えたのだ。
男性二人から攻撃を受け。耳飾りの石が、少しずつ割れる音がする。こうなってしまっては、ブランに知らせる事が出来ない。
ピシッ……ピシッ……パリンッ。
耳飾りの石が攻撃に耐えられず、割れてしまった。
「手間、取らせやがって……。」
「おい。この嬢ちゃん、昨日店に居た奴じゃないか?」
「チッ……。顔を見られてしまってはしょうがない。連れていくぞ。」
「まぁ、この嬢ちゃん美人だし高くで売れるんじゃねーか?」
「そうだな。……声だそうとしても無駄だぞ? 向こうからは、声なんて聞こえない」
ルミエールは、子供を庇うように前に立つ。
(どうしよう……。戦う事だって出来る。だけど、この子を守りながらなんて出来るかしら?)
チラッと、後ろに目をやると子供は今にも泣きそうな表情をしていた。
「……離れないでね?」
ルミエールは子供に小さくそう言うと、詠唱無しに火の塊を作り出す。
(どこまで出来るか分からない。だけど、二人……この二人を倒せたら……。)
攻撃をするが、男達はニヤニヤとしながら防御魔法を展開する。
此方に近づけない様にするのが精一杯だった。
「うわぁー!!」
後ろにいた子供の叫び声が聞こえ。後ろを振り向くと、最初に吹き飛ばされた男が子供を捕まえ。後ろからルミエールに攻撃をしてきた。ルミエールの意識は、そこで途絶えてしまった。
(あの子は大丈夫なんだろうか……。ブラン心配しているだろうな……。)
周りの音に耳を澄ませてみると、微かに誰かの寝息が聞こえるが後は何も聞こえない。
(あの男達は、私を見て高くで売れると言っていたわね……。もしかして、人族が竜人族の子供達を拐ってる? そう言えば、この頃竜人族の子供達の行方が分からなくなっている事があるって聞いたような……。)
店に来ていた人達が話していたのを聞いた事があった。
魔力を上手く使えない子供を、狙っているのだろうと話していたのだ。上手く魔力を使えない子供は、人族の大人に勝てはしない。
「……お姉ちゃん起きたの?」
「……えぇ。目を隠している物を取ってもらってもいい?」
ルミエールが身動ぎしていたからか、小さく幼い声が聞こえてきた。子供は小さな手で、必死にルミエールの目を覆っていたものを外す。
少しずつ目を開ける。
目に飛び込んできたのは、広い部屋に何人かの子供達が固まって座っていた。
子供達は全員、竜人族だった。
(この子達は、拐われてしまったのね……。でも、やけに人数が多い……。)
「……此処から何処かに連れ出されたりした子は居た?」
ルミエールがそう聞くと、固まって座っていた子達は横に首を振る。
(良かった、全員居るのね。……後は、どう助けを呼ぼう。)
頭がクラクラしていて、何も考えられない。
「……お姉ちゃん大丈夫? 拐われてから、何日か経ってもお姉ちゃん起きないから心配しちゃった。」
「……あれから何日か経ってるの?」
「うん」
高い所にある窓からは月が見えていた為、夜まで眠っていただけだと思っていたルミエールは驚愕し、焦った。
(何日も眠っていたなんて! ブラン心配しているだろうな……。何か……何か、此処から皆と脱出する方法を考えないと! 私が転移魔法が使えたら良かったけれど、あの耳飾りだってないし……。)
考えるが、焦っているからか何も思いつかない。
(この子達を全員助ける方法なんてあるのだろうか……。また、ブランと会えなくなってしまったらどうしよう。)
そんな事を考え、目に涙が溜まるが泣いている場合ではないと。今度こそブランと幸せになると決めたのだと思い、涙を拭き。下を向いていた顔を上げる。
子供達が心配そうに此方を見ていた。
ルミエールは子供達に心配させまいと、笑みを浮かべる。
「……此処から皆で逃げて、お家に帰りましましょうね」
「うん!」
「……でも、逃げれるの?」
「そうだよ! 外には、あの人達がいるよ?」
普通に扉から出ようとすると、拐った男達に出会うかもしれない。でも、窓は高い位置に付いていて届く事がない。
ルミエールが、どう逃げようかと頭を抱えた時だった。外から微かに、ブランの魔力がする。
そう、此処はまだ王都。ブランがよくやっている、魔力を操り、ルミエールが此処に居ることを知らせられたら良いのではないかと、ルミエールは考えた。
番であれば、まだ近くに居ることは分かっているはず。後は、ルミエールがブランに居場所を教えるだけだった。
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