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第一章
懐かしい人②
しおりを挟むその日、ボヌルは夜から開けると言うことだった。ルミエールはリゼに頼まれ、街に買い出しに出掛ける事になった。
街に行くと、遠くの方で人だかりが出来ているのが見えた。人だかりの近くでは、騎士団の人達が苦笑いを浮かべながら立っている。
(……誰か来ているのかしら?)
ルミエールは気になったので、人だかりの近くまで歩いていく。人だかりの近くで立っていた騎士団の中に、見知った顔の人を見つけた。
彼方もルミエールに気づいたのか、嬉しそうな表情をしている。その人は、ルミエールに手を振りながら近づいてきた。
「あっ! ルミエールさんじゃないですか! おはようございます」
「リーヤンさん、おはようございます。見回りですか?」
ルミエールはリーヤンが居たので、見回りで居るのかと思い聞いてみるが、リーヤンは困った表情で首を横に振った。
「いえ。ブラン様の側近の方が街に行くと言うことで、我々は護衛として来たんです。ですが、街に来た途端女の人達に囲まれてしまって向こうに行けないのです。まぁ、街に来たらいつもの事なんですが……。」
(……側近?)
ブランの側近と言われ、ルミエールは一人の男しか思い浮かばなかった。
一見、甘いマスクで女性受けが良さそうな顔をしているけれど、本当は腹黒で何を考えているか分からないこの国の宰相でもある男……。
その男とは、いつも意見が合わず。リゼリアは、よく言い合いをしていた。
(でも、前世とは姿も違うから分からないだろうと思うけれど。……何でだろう。この場から離れなければいけないと、思ってしまうのは。)
「……リーヤン。貴方は、私の護衛じゃないんですか? 何、女の人を口説いているのです。」
「失礼致しました! 知り合いの方が居たもので。」
ルミエールとリーヤンが喋っていると、呆れた様な声が後ろから聞こえた。
後ろには、深緑の長い髪に翡翠色の瞳を持つ男が立っていた。綺麗な顔をしているため、女の人と間違えられる事が多いと本人に聞いたことがある。ネス・フレリア。それが、この男の名前だ。
「はぁ~。まったく、毎回毎回揉みくちゃにされるのも困りますね……。」
ネスは、疲れた様な表情をしながら髪をかきあげる。その動作一つで、周りからは歓声が上がる。
ルミエールは、ネスと目があった。向こうは、何故かびっくりした表情でルミエールを見ている。
「……貴女。名前は?」
「ルミエール・リフェアと申します。」
「あっ! 宰相様もルミエールさんを口説いているんですか?」
「リーヤン、黙りなさい。……誰かも、この方を口説いていたのですか?」
「団長が、口説いてましたよ! 何か、気になるって言ってましたね。」
(リーヤンさん! 余計な事を言わないで!!)
リーヤンの言葉を聞いたネスの表情が、どんどんと悪い顔になっていってる。
「へぇ~。シルがねぇ~。」
この表情は、良からぬ事を考えている顔だ。絶対に、後からシルがからかわれてしまうと、ルミエールは思ってしまった。
ネスは、ルミエールの方を向く。ネスの瞳が、全てを見透かしているような感覚になり、ルミエールは目を反らしそうになった。
だが、ここで逃げてはいけないと思い。真っ直ぐと見つめる。
「お嬢さん。私と、少しお話しませんか?」
「……そうですね。私もお話したいと思っていた所です。」
(本当は嫌だけれど。今、ネスから逃げると後々面倒な事になりそうなんだもの……。)
「リーヤン。先に戻ってなさい」
「はっ! 畏まりました。」
リーヤンはそう言うと、ルミエールとネスに頭を少し下げ、行ってしまった。
「さて、ルミエールさん。いえ、リゼリア様とお呼びするべきですか?」
(やっぱり、分かっていたのね。)
ネスは、ルミエールがどんな反応をするのか気になるようで、ニコニコとした表情をしている。
ルミエールは、溜め息をつく。
「久しぶりね、ネス。」
「あれ? 認めてしまって良いのですか?」
「私の正体が分かっているんだから、わざわざ嘘なんてつかないわ。」
(でも、なんで分かってしまったのだろう。シルは私の事を分からなかったのに……。)
「なんで? って言う顔をしてますね。貴女に気配が分からない様に魔法が掛けられているみたいですが、それも解けかけているみたいですね。まぁ、ブラン様にはもう知られていると思いますが……。」
(魔法? 何でそんなものが?……それより、今ネスは何て言った? ブランに知られている?)
「嘘……。」
「こんなにも城に近い所に居て、気配がはっきりと分かる様になっていれば、知られてもいるでしょう。」
(ネスが分かったと言うことは、ブランはルミエールを見たら必ず分かってしまうわ。ブランとは会えない……。あんな最後でお別れした、最愛の人になんて……。ブランがあの時の令嬢と、婚約をしていなくても。リゼリアの事をまだ愛してくれるとは限らないのだから。)
「……また、あいつを置いて行くのか?」
「えっ?」
ルミエールが何処か焦ったような表情をしながらを考えていると、ネスがポツリと小さく呟いた。
ネスは、真剣な表情をしながらルミエールの事をジッと見つめていた。
ゴーン……ゴーン……。
いきなり、街全体に響き渡るような鐘の音がした。
「……あぁ、ブラン様が目覚めたみたいですね。では、私は失礼します。また、違う日にでもお話致しましょう」
「えっ……。」
ネスはそう言い残すと、転移魔法で去っていってしまった。
ルミエールはブランが目覚めた事を聞いて、息をするのも忘れそうなほど驚愕して少しの間その場から動けなかった。
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