2 / 16
2.一緒に居る条件
しおりを挟む夢の中で、この子の記憶が流れ込んでくる。
名前もなく、両親にも瞳の事で愛されず。村の生け贄として使われたこの子供の記憶が……。
悲しい……悲しい記憶だった。
「……た……なん……」
……声が聞こえる。
(今、寝ているんだから静かにしてほしい。)
「この子をどうするんですか!」
「私が育てる」
側で、誰かが言い争っている。
(確か、仕事から帰って来て。疲れて寝てしまってた。目が覚めたら、魔界に居て。それで……そうだ!! 魔王様に会ったんだ!! 魔王様に会って。魔王様に、私の首根っこを掴まれて。空を飛んだ瞬間、私は意識を飛ばしてしまったんだった!! 飛び上がるんだったら、一言言って欲しかった!!)
「こんな小さな子を……それも、人間を貴方様が育てれる訳ないでしょ!! 貴方様は、魔王ですよ!?」
「くどい。シルベット、そいつを追い出せ」
「畏まりました。クラウド様」
「話を聞いて下され!」
魔王と、言い争っていた人の声が遠ざかっていった。
やっぱり、人間の事を反対する人だっていた。
(どうしよう。ここで暮らしていくのは難しいかもしれない。やっぱり、出ていかないと駄目? )
出て行ったとしても、魔物や魔族がいる中で生きていける自信が今の自分には無かった。
そんな事を考えていると、頭を誰かが撫でる。
「起きているのだろう?」
初めて会ったのに、何故か安心できて信じれる人……。
「まおうしゃま?」
話を聞いていた事がバレないように、今起きた様な素振りをする。
体を起こすと、魔王様の横には銀色の短髪に赤色の瞳をした男の人が立っていた。
誰だろうか……。
「だ~れ?」
「あぁ、本当に珍しい瞳だ。……これは、失礼致しました。私は、魔王様の側近であるシルベットと申します」
シルベットと名乗った男は、軽く頭を下げる。
「シルベッチョ?」
「シルベットです。」
「シルベッ……ト!!」
「はい。よく言えました。」
そう言うと、シルベットは包み紙に包まれているお菓子をくれた。
「おいし~ね! シルベットありあと~」
「気に入って頂けて良かったです。」
そんな事をシルベットと話していると、魔王は少女を抱き上げ。膝の上に座らせた。
「まおうしゃま、一人でもしゅわれるよ?」
「此所にいろ。……それで? お前の名はなんと言う?」
(……名前。この体の子には、夢で見る限り名前は無かった。)
名前を付けてもらえず、「おい」や「おまえ」と呼ばれていたのだ。周りの子供達が、名前で呼ばれるのをこの子はいつも羨ましそうに見ていた。
「……ミオでしゅ!」
だったら、自分が名前を付ければいい。
元の世界に戻れないなら、この子も私もこの世界で幸せになろう!
そうと決まれば、快適生活をおくるために頑張らなければ!!
「ミオか……良い名だ。」
魔王様は、そういうと目を細めて頭を撫でてくれる。
「まおうしゃま! お願いがありましゅ!」
「……? 何だ?」
「このお城にょ掃除やしぇんたくをてちゅだうので、ここにしゅみたいです!」
「掃除、洗濯をするのでここに住みたいと……なるほど。どうしますか?魔王様」
「……何もしなくても、ここに居ていいんだぞ?」
「めっ! でしゅよ。働かざるもの食うべからじゅでしゅ!」
「なんだ? それは」
「とにかく、はたらきましゅ!!」
タダで置いてもらうのは、申し訳ない。掃除や洗濯、料理とかは元の世界でしていたから出来るはず!
「……では、シルベット。ミオは私付きの侍女にしろ」
「畏まりました。ではミオ、魔王様の身の回りの世話をお願いしますね?」
「あい!」
ミオはそう言われ、元気好く手を上げた。
(魔王様の身の回りのお世話……責任重大だわ!! ちゃんと覚えないと!!)
「では、明日からお願いします」
「あい! でも、今日からでも大丈夫でしゅよ?」
「貴女は倒れたのです。きちんと、安静にしていなさい」
(シルベットさんって、お母さんみたい……。)
でも、そんな事は口が避けても言えない。
シルベットはそう言うと、軽く魔王に頭を下げて部屋から出ていってしまった。
「……さて。寝るか」
「……? ねむたくにゃいよ?」
「あんだけ気絶していたからな。だが、もう夜だ。寝ろ」
魔王はそう言うと、お腹を優しくポンポンと叩いてきた。
いっぱい寝たから眠く無いはずなのに、魔王が寝かしつけてくれるからどんどんと瞼が閉じてくる。
(……明日から、頑張らないとな。)
寝る前に、先ほどから気になっていた事を魔王に聞くことにした。
「まおうしゃま。まおうしゃまのお名前はなんて言うの?」
「……ク……ドだ。」
「……しょっか~」
魔王の名前を聞いたと同時に、ミオは眠りについてしまった。
24
お気に入りに追加
625
あなたにおすすめの小説
皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~
saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。
前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。
国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。
自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。
幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。
自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。
前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。
※小説家になろう様でも公開しています

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、


家族はチート級、私は加護持ち末っ子です!
咲良
ファンタジー
前世の記憶を持っているこの国のお姫様、アクアマリン。
家族はチート級に強いのに…
私は魔力ゼロ!?
今年で五歳。能力鑑定の日が来た。期待もせずに鑑定用の水晶に触れて見ると、神の愛し子+神の加護!?
優しい優しい家族は褒めてくれて… 国民も喜んでくれて… なんだかんだで楽しい生活を過ごしてます!
もふもふなお友達と溺愛チート家族の日常?物語

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。

大公閣下!こちらの双子様、耳と尾がはえておりますが!?
まめまめ
恋愛
魔法が使えない無能ハズレ令嬢オリヴィアは、実父にも見限られ、皇子との縁談も破談になり、仕方なく北の大公家へ家庭教師として働きに出る。
大公邸で会ったのは、可愛すぎる4歳の双子の兄妹!
「オリヴィアさまっ、いっしょにねよ?」
(可愛すぎるけど…なぜ椅子がシャンデリアに引っかかってるんですか!?カーテンもクロスもぼろぼろ…ああ!スープのお皿は投げないでください!!)
双子様の父親、大公閣下に相談しても
「子どもたちのことは貴女に任せます。」
と冷たい瞳で吐き捨てられるだけ。
しかもこちらの双子様、頭とおしりに、もふもふが…!?
どん底だけどめげないオリヴィアが、心を閉ざした大公閣下と可愛い謎の双子とどうにかこうにか家族になっていく恋愛要素多めのホームドラマ(?)です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる