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5・番外編:シリアルキラーの惻隠
しおりを挟む「おーい、石川!」
駐車場から出たところだった。わりと大声、と表現しても差し支えないくらいの音量で、呼び止められる。これを聞こえないフリをするのは、さすがに無理があるだろう。
「なんですか」
声で判断するに、相手はきっと悠だ。視線をやるとやはりあの、あまり特徴のない量産型大学生がそこにいた。息を切らせて、こちらに近づいてくる。
「重役出勤? 今期一限ないんだっけ?」
この人就活はどうしたんだろう。もうあまり授業はないはずなのに。
「いやあの、ちょっと今日は予定がありまして」
誤魔化すように笑って、チラッと時計を確認する。くそ、まだ二限までには時間がある。かといって、今から一限に行っても遅刻扱いにすらならないだろう。中途半端な時間。
あの女が送っていけなんて言うからこうなった。舌打ちをするのは、心の中で留めておく。
そんな石川の様子を見て、悠はなにかを察したように、ふふんと顎に手を当てる。
「なにー、もしかして、新しい彼女?」
面白いものを見つけた、とでも言いたげな表情で、こちらを見つめる。
「え、ええ。まぁ」
ここで否定しても、怪しまれるだけだ。別に彼女ができるくらい、珍しいことではない。
「えーじゃあ今度会わせてよ!」
げ、面倒なことになった。これは結構まずい。
「え、それはちょっと……」
言い淀んでいると、ちょうどスマホが鳴った。この音は、メッセージだな。
「彼女から?」
確認すると、その通り志保からのものだった。つくづくタイミングの悪い女だ。
「はぁ、まぁ」
「なんだって」
期待に満ちた目でこちらを見られても困る。
「今度デートすることになりました」
ここは正直に話そう。変に嘘をついて、あとで困るのはたくさんだ。
「いいじゃん、ダブルデートしようよ!」
悠の言葉に、少し驚く。
「まだあの人と付き合ってるんですか?」
たしかこの人、四十代の会社員と付き合ってたっけ。話とか合うんだろうか、少し気になる。
「めっちゃいい人だよ」
「それはわかりますけど」
たしかに一度あったことがあるが、とてもいい人だった。悠にはもったいないくらいに。
「見た目もだいぶタイプ」
「でしょうね」
この人ショタコンだから、まぁ丁度いいといえばそうなのかもしれない。合法ショタだもんな……。
「じゃ、よろしく! 細かいことはあとで連絡するから」
台風のようにすぐに去っていく。手を小さく振り返して、彼の姿が見えなくなるのを待った。
ふと、志保のことが気になった。あんなメッセージを送ってきたのだ。学校で友達になにか言われたとか。ニュースで見たが、緑の制服のあの学校、女子校なんだっけか。
十中八九、自分が本当の彼氏か疑われているのだろう。仕方ない、今日は早めに切り上げて迎えに行くか。
『了解、俺も今度紹介したい人いるから。また連絡する』
授業の前に朝ごはんだ。購買に寄ろう。
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