上 下
44 / 53
5章 ブラッドリー家の転校生

キチガイ一家

しおりを挟む
「あいつら絶対おかしい」
「そりゃ、見るからにおかしいでしょ」
 アーティが部屋の中をぐるぐる回った。普段のような落ち着きはなく、とにかくせわしない。この学校に来てからずっと、エドワードとルドルフのことを疑っているようだ。ま、あのアヘンの量を見たらびっくりするけど。
同性愛ホモなのかな?」
 モードお兄様がぼんやり天井を見つめながらそう言った。なにも考えていません、って感じ。きゃー好き、イケメン。推せる。
「きっしょ、犯罪じゃん」
 頭の中はオタク全開だったが、それらを表情に出さないよう気を配った。ヴィクトリア朝ではホモは犯罪。そんなの常識だ。それこそ、非嫡出子の比じゃないほどに人権がなくなる。
 ずっと手を繋いでる双子をアーティが怪しむのも不思議なことではなかった。しかし、アーティは神妙な面持ちで足を止め。ソファにどっかりと座った。優雅に足を組む。ソックスガーターがチラリと見えた。
「いや……俺たちと同じ、好きでそうしてるんじゃない。そうしなければならない・・・・・・・・・・・んだ」
「うーん、つまり?」
 アーティの釈然としない言い方に、モードお兄様は眉をひそめた。首を動かす度に短い金髪が揺れる。
「俺は日光が嫌いだし、メフィストは頭痛持ち、兄貴は頭がおかしいし……」
 アーティは私たちそれぞれの弱点を列挙した。たしかにそう、ブラッドリー家の人間でまったくの健康という人間は見たことがない。魔法が使えるようになった代償だとも、呪いだとも囁かれていた。
「俺は至極マトモなんだけどな?」
「そう! お兄様はイケメンだからなにをしても許されるの!!」
「うぜー」
 私はすかさずフォローしたが、瀉血オナニーの趣味はマトモとは到底思えなかった。あ~、でも顔が好きすぎるから許せるかも。内心を悟られないよう軽く咳払いをした。
「あれでしょ、つまりうちブラッドリー家は近親婚を繰り返してるからあの二人はなにかしらおかしくて、だから常に一緒に行動してるってわけね」
 私はソファの上で足を組んだ。黒いフリルのスカートがかわいらしく揺れた。勝手に応接間を使って、叔父様達に怒られるのかもしれない。いや、あの二人ならニコニコ笑って許すだろう。なにを考えているのかわからない、するりと逃げていく不気味さがあった。
「エディは目が見えてないし、ルディは耳が聞こえない」
「……」
「だからいつも手を繋いでるんだ」
 暖炉の炎がパチパチと揺れる。アーティの言葉にお兄様は首を捻った。ソファの上でゆっくり伸びをして、それからその灰色がかった瞳でアーティに視線をやる。困ったようにはにかんだ。
「ふーん、だったら初めからそう言ってくれればよかったのに」
「まじでお前ぶっ殺すぞ」
「やめて!」
 アーティがお兄様に殴りかかろうという勢いで立ち上がったので、私は大声を上げて制止する必要があった。モードお兄様はのんびりと立ち上がって微笑んだ。
「うーん、そしたら、俺が今夜電話をかけるよ」
「きゃーお兄様! 頑張って!!」
 夜中は部屋の外に出ることができない。決して破ってはいけない校則。それは、視察に来た私たちも例外ではなかった。
 部屋は個室で快適そのものだったので、今までそういう気も起こらなかった。でも、あの二人が夜中にコソコソ動いているのだとしたら話は変わってくる。お兄様が電話をかけてくれるなら、なにか手がかりを掴めるかもしれない。
「少しは仕事して貰わねーとな」
 アーティが不機嫌そうに鼻を鳴らした。この学校には最新の内線ベルが完備されていた。空気の抜けるパイプを利用した代物だが、以外と使える。頑張って貰わなくっちゃ!

   ***

 朝食の席がいつもよりざわめいていた。嫌な予感がして、私は人混みの中へ向かう。彼らの視線の先にはレオポルドが倒れていた。頭や身体から大量に血を流している。顔面蒼白だ。
「……死んでる」
 誰かがそう呟いて、周囲がざわめいた。アーティが慌てた様子で私に近づいてきた。
「メフィ、お前治せないのかよ」
「……いくら私でも、死んだ人間を生き返らせるなんてできない」
 喉から声を絞り出すので精一杯だった。レオ、あの自信なさげな動作すらもはや過去のものとなった。
 滅多刺し――この殺され方は私たち全員が覚えがあった。日夜新聞を騒がせている、切り裂きジャックの仕業だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢は薬師を目指す~悪役令嬢ってなんですの?~【短編版】

ゆうの
ファンタジー
 公爵令嬢、ミネルヴァ・メディシスは時折夢に見る。「治癒の神力を授かることができなかった落ちこぼれのミネルヴァ・メディシス」が、婚約者である第一王子殿下と恋に落ちた男爵令嬢に毒を盛り、断罪される夢を。  ――しかし、夢から覚めたミネルヴァは、そのたびに、思うのだ。「医者の家系《メディシス》に生まれた自分がよりによって誰かに毒を盛るなんて真似をするはずがないのに」と。  これは、「治癒の神力」を授かれなかったミネルヴァが、それでもメディシスの人間たろうと努力した、その先の話。 ※ 様子見で(一応)短編として投稿します。反響次第では長編化しようかと(「その後」を含めて書きたいエピソードは山ほどある)。

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。

三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*  公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。  どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。 ※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。 ※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

悪役令嬢は所詮悪役令嬢

白雪の雫
ファンタジー
「アネット=アンダーソン!貴女の私に対する仕打ちは到底許されるものではありません!殿下、どうかあの平民の女に頭を下げるように言って下さいませ!」 魔力に秀でているという理由で聖女に選ばれてしまったアネットは、平民であるにも関わらず公爵令嬢にして王太子殿下の婚約者である自分を階段から突き落とそうとしただの、冬の池に突き落として凍死させようとしただの、魔物を操って殺そうとしただの──・・・。 リリスが言っている事は全て彼女達による自作自演だ。というより、ゲームの中でリリスがヒロインであるアネットに対して行っていた所業である。 愛しいリリスに縋られたものだから男としての株を上げたい王太子は、アネットが無実だと分かった上で彼女を断罪しようとするのだが、そこに父親である国王と教皇、そして聖女の夫がやって来る──・・・。 悪役令嬢がいい子ちゃん、ヒロインが脳内お花畑のビッチヒドインで『ざまぁ』されるのが多いので、逆にしたらどうなるのか?という思い付きで浮かんだ話です。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

処理中です...