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5章 ブラッドリー家の転校生

キチガイ一家

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「あいつら絶対おかしい」
「そりゃ、見るからにおかしいでしょ」
 アーティが部屋の中をぐるぐる回った。普段のような落ち着きはなく、とにかくせわしない。この学校に来てからずっと、エドワードとルドルフのことを疑っているようだ。ま、あのアヘンの量を見たらびっくりするけど。
同性愛ホモなのかな?」
 モードお兄様がぼんやり天井を見つめながらそう言った。なにも考えていません、って感じ。きゃー好き、イケメン。推せる。
「きっしょ、犯罪じゃん」
 頭の中はオタク全開だったが、それらを表情に出さないよう気を配った。ヴィクトリア朝ではホモは犯罪。そんなの常識だ。それこそ、非嫡出子の比じゃないほどに人権がなくなる。
 ずっと手を繋いでる双子をアーティが怪しむのも不思議なことではなかった。しかし、アーティは神妙な面持ちで足を止め。ソファにどっかりと座った。優雅に足を組む。ソックスガーターがチラリと見えた。
「いや……俺たちと同じ、好きでそうしてるんじゃない。そうしなければならない・・・・・・・・・・・んだ」
「うーん、つまり?」
 アーティの釈然としない言い方に、モードお兄様は眉をひそめた。首を動かす度に短い金髪が揺れる。
「俺は日光が嫌いだし、メフィストは頭痛持ち、兄貴は頭がおかしいし……」
 アーティは私たちそれぞれの弱点を列挙した。たしかにそう、ブラッドリー家の人間でまったくの健康という人間は見たことがない。魔法が使えるようになった代償だとも、呪いだとも囁かれていた。
「俺は至極マトモなんだけどな?」
「そう! お兄様はイケメンだからなにをしても許されるの!!」
「うぜー」
 私はすかさずフォローしたが、瀉血オナニーの趣味はマトモとは到底思えなかった。あ~、でも顔が好きすぎるから許せるかも。内心を悟られないよう軽く咳払いをした。
「あれでしょ、つまりうちブラッドリー家は近親婚を繰り返してるからあの二人はなにかしらおかしくて、だから常に一緒に行動してるってわけね」
 私はソファの上で足を組んだ。黒いフリルのスカートがかわいらしく揺れた。勝手に応接間を使って、叔父様達に怒られるのかもしれない。いや、あの二人ならニコニコ笑って許すだろう。なにを考えているのかわからない、するりと逃げていく不気味さがあった。
「エディは目が見えてないし、ルディは耳が聞こえない」
「……」
「だからいつも手を繋いでるんだ」
 暖炉の炎がパチパチと揺れる。アーティの言葉にお兄様は首を捻った。ソファの上でゆっくり伸びをして、それからその灰色がかった瞳でアーティに視線をやる。困ったようにはにかんだ。
「ふーん、だったら初めからそう言ってくれればよかったのに」
「まじでお前ぶっ殺すぞ」
「やめて!」
 アーティがお兄様に殴りかかろうという勢いで立ち上がったので、私は大声を上げて制止する必要があった。モードお兄様はのんびりと立ち上がって微笑んだ。
「うーん、そしたら、俺が今夜電話をかけるよ」
「きゃーお兄様! 頑張って!!」
 夜中は部屋の外に出ることができない。決して破ってはいけない校則。それは、視察に来た私たちも例外ではなかった。
 部屋は個室で快適そのものだったので、今までそういう気も起こらなかった。でも、あの二人が夜中にコソコソ動いているのだとしたら話は変わってくる。お兄様が電話をかけてくれるなら、なにか手がかりを掴めるかもしれない。
「少しは仕事して貰わねーとな」
 アーティが不機嫌そうに鼻を鳴らした。この学校には最新の内線ベルが完備されていた。空気の抜けるパイプを利用した代物だが、以外と使える。頑張って貰わなくっちゃ!

   ***

 朝食の席がいつもよりざわめいていた。嫌な予感がして、私は人混みの中へ向かう。彼らの視線の先にはレオポルドが倒れていた。頭や身体から大量に血を流している。顔面蒼白だ。
「……死んでる」
 誰かがそう呟いて、周囲がざわめいた。アーティが慌てた様子で私に近づいてきた。
「メフィ、お前治せないのかよ」
「……いくら私でも、死んだ人間を生き返らせるなんてできない」
 喉から声を絞り出すので精一杯だった。レオ、あの自信なさげな動作すらもはや過去のものとなった。
 滅多刺し――この殺され方は私たち全員が覚えがあった。日夜新聞を騒がせている、切り裂きジャックの仕業だ。
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