31 / 53
番外編 なくなってしまった未来①
ブラッドリー家の喜劇
しおりを挟む
「大丈夫? それ、締め付けすぎじゃない?」
「こんなもんよ」
パーティに参加するなんて初めてだ。これはまだ、カジュアルなほうらしい。リサは慣れた様子で挨拶をして回って、呼吸困難に陥っては私の元へ休憩しにやってきた。
灰色のパッとしないドレスを、私が流行の緑色に変えた。彼女の長い金髪は編み込まれ、誰よりも目立っていた。控えめに笑う様子も、たびたび呼吸が乱れるのも全て、男性陣の心を掴んでいる。それがわかる。
私は地味な、モスグリーンのスカートを履いてきた。子供扱いしてくる参加者にうんざりする。
「メアリーの言う通り、結婚したほうが殺しやすいし、殺さなくても権力が手に入る」
小声で、そうやって耳打ちしてくるだけでも嬉しい。だけど彼女が遠くへ行ってしまったようで悲しい。どうしようもない焦燥感が私を襲った。
「ねぇリサ、私――」
私が言葉を発する前に、ベアトリスが割って入ってきた。子供用の紫のドレスは、魔法の力でキラキラ光っていた。
「リサ、私たち、いいお友達になれると思わない? ショタコンの叔父を警察に突き出すのも楽しそうだし、あなたたちの殺人計画を公表するのも楽しそうだし、私の起こした事故についてだって」
「何言ってるの姉さん!」
アルチューロ叔父さんの話まで、今する必要ないじゃないか。姉さんがなにを考えているのか理解できない。無理矢理退院してきて、こんなパーティを開いたりして。
「私ね、リサには可能性を感じてるの。私の大好きな、普通じゃない人間」
その言い方、まるで私が普通の人間みたいじゃないか。たしかにまだ、ベアトリスほど上手に魔法を扱えないけれど、なのにこんな……。
「別に非嫡出子でもいいじゃない、ね?」
そう言ってリサの手を握る。私の動揺なんて知らないで、ベアトリスはヒソヒソ話を始めた。私たち、三人にしか聞こえないような音量で喋る。
「あの事故はね、退屈しのぎなの。私の暇つぶしのために、あいつらは存在するんだから」
何を言ってるんだ。退屈だから事故を起こしたっていうのか。信用をガタ落ちさせてまで。下働きしかさせられない鬱憤もあったのだろうか。私の中の、優しくて聡明な姉の像が音を立てて崩れ去る。目の前で、いたずらっぽく笑う少女。無邪気さすら感じる。なにも知らなければ。
「お姉さんめちゃくちゃ面白いですね!」
リサは、そう答えてまた立ち去ろうとする。一生懸命腕を掴んだ。話を聞いてもらいたくて。
「待って、私、あなたの言うこと、なんでも聞く。だから、不倫でもいいから、一緒にいたいの」
「アンタに利用価値があるうちはね」
「召使いにしてやってもいいけど?」と冗談交じりにのたまった。みんな笑っていた。軽快なクラッシック音楽が演奏され、女性はウエストを絞ったドレスを着て、男性は黒いナイロンのジャケットを纏って踊ったり、談笑したりしていた。そのどれもが遠くの出来事のように思える。
ベアトリスがクスクスと笑って私に耳打ちする。
「で、どの人がギルバート・グレイなの?」
Life is a tragedy when seen in close-up, but a comedy in long-shot.
(人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇である/チャールズ・チャップリン)
「こんなもんよ」
パーティに参加するなんて初めてだ。これはまだ、カジュアルなほうらしい。リサは慣れた様子で挨拶をして回って、呼吸困難に陥っては私の元へ休憩しにやってきた。
灰色のパッとしないドレスを、私が流行の緑色に変えた。彼女の長い金髪は編み込まれ、誰よりも目立っていた。控えめに笑う様子も、たびたび呼吸が乱れるのも全て、男性陣の心を掴んでいる。それがわかる。
私は地味な、モスグリーンのスカートを履いてきた。子供扱いしてくる参加者にうんざりする。
「メアリーの言う通り、結婚したほうが殺しやすいし、殺さなくても権力が手に入る」
小声で、そうやって耳打ちしてくるだけでも嬉しい。だけど彼女が遠くへ行ってしまったようで悲しい。どうしようもない焦燥感が私を襲った。
「ねぇリサ、私――」
私が言葉を発する前に、ベアトリスが割って入ってきた。子供用の紫のドレスは、魔法の力でキラキラ光っていた。
「リサ、私たち、いいお友達になれると思わない? ショタコンの叔父を警察に突き出すのも楽しそうだし、あなたたちの殺人計画を公表するのも楽しそうだし、私の起こした事故についてだって」
「何言ってるの姉さん!」
アルチューロ叔父さんの話まで、今する必要ないじゃないか。姉さんがなにを考えているのか理解できない。無理矢理退院してきて、こんなパーティを開いたりして。
「私ね、リサには可能性を感じてるの。私の大好きな、普通じゃない人間」
その言い方、まるで私が普通の人間みたいじゃないか。たしかにまだ、ベアトリスほど上手に魔法を扱えないけれど、なのにこんな……。
「別に非嫡出子でもいいじゃない、ね?」
そう言ってリサの手を握る。私の動揺なんて知らないで、ベアトリスはヒソヒソ話を始めた。私たち、三人にしか聞こえないような音量で喋る。
「あの事故はね、退屈しのぎなの。私の暇つぶしのために、あいつらは存在するんだから」
何を言ってるんだ。退屈だから事故を起こしたっていうのか。信用をガタ落ちさせてまで。下働きしかさせられない鬱憤もあったのだろうか。私の中の、優しくて聡明な姉の像が音を立てて崩れ去る。目の前で、いたずらっぽく笑う少女。無邪気さすら感じる。なにも知らなければ。
「お姉さんめちゃくちゃ面白いですね!」
リサは、そう答えてまた立ち去ろうとする。一生懸命腕を掴んだ。話を聞いてもらいたくて。
「待って、私、あなたの言うこと、なんでも聞く。だから、不倫でもいいから、一緒にいたいの」
「アンタに利用価値があるうちはね」
「召使いにしてやってもいいけど?」と冗談交じりにのたまった。みんな笑っていた。軽快なクラッシック音楽が演奏され、女性はウエストを絞ったドレスを着て、男性は黒いナイロンのジャケットを纏って踊ったり、談笑したりしていた。そのどれもが遠くの出来事のように思える。
ベアトリスがクスクスと笑って私に耳打ちする。
「で、どの人がギルバート・グレイなの?」
Life is a tragedy when seen in close-up, but a comedy in long-shot.
(人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇である/チャールズ・チャップリン)
3
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢は薬師を目指す~悪役令嬢ってなんですの?~【短編版】
ゆうの
ファンタジー
公爵令嬢、ミネルヴァ・メディシスは時折夢に見る。「治癒の神力を授かることができなかった落ちこぼれのミネルヴァ・メディシス」が、婚約者である第一王子殿下と恋に落ちた男爵令嬢に毒を盛り、断罪される夢を。
――しかし、夢から覚めたミネルヴァは、そのたびに、思うのだ。「医者の家系《メディシス》に生まれた自分がよりによって誰かに毒を盛るなんて真似をするはずがないのに」と。
これは、「治癒の神力」を授かれなかったミネルヴァが、それでもメディシスの人間たろうと努力した、その先の話。
※ 様子見で(一応)短編として投稿します。反響次第では長編化しようかと(「その後」を含めて書きたいエピソードは山ほどある)。
悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい
斯波
ファンタジー
ブラック企業を辞退した私が卒業後に手に入れたのは無職の称号だった。不服そうな親の目から逃れるべく、喫茶店でパート情報を探そうとしたが暴走トラックに轢かれて人生を終えた――かと思ったら村人達に恐れられ、軟禁されている10歳の少女に転生していた。どうやら少女の強大すぎる魔法は村人達の恐怖の対象となったらしい。村人の気持ちも分からなくはないが、二度目の人生を小屋での軟禁生活で終わらせるつもりは毛頭ないので、逃げることにした。だが私には強すぎるステータスと『ポイント交換システム』がある!拠点をテントに決め、日々魔物を狩りながら自由気ままな冒険者を続けてたのだが……。
※1.恋愛要素を含みますが、出てくるのが遅いのでご注意ください。
※2.『悪役令嬢に転生したので断罪エンドまでぐーたら過ごしたい 王子がスパルタとか聞いてないんですけど!?』と同じ世界観・時間軸のお話ですが、こちらだけでもお楽しみいただけます。
悪役令嬢は所詮悪役令嬢
白雪の雫
ファンタジー
「アネット=アンダーソン!貴女の私に対する仕打ちは到底許されるものではありません!殿下、どうかあの平民の女に頭を下げるように言って下さいませ!」
魔力に秀でているという理由で聖女に選ばれてしまったアネットは、平民であるにも関わらず公爵令嬢にして王太子殿下の婚約者である自分を階段から突き落とそうとしただの、冬の池に突き落として凍死させようとしただの、魔物を操って殺そうとしただの──・・・。
リリスが言っている事は全て彼女達による自作自演だ。というより、ゲームの中でリリスがヒロインであるアネットに対して行っていた所業である。
愛しいリリスに縋られたものだから男としての株を上げたい王太子は、アネットが無実だと分かった上で彼女を断罪しようとするのだが、そこに父親である国王と教皇、そして聖女の夫がやって来る──・・・。
悪役令嬢がいい子ちゃん、ヒロインが脳内お花畑のビッチヒドインで『ざまぁ』されるのが多いので、逆にしたらどうなるのか?という思い付きで浮かんだ話です。
家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。
その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。
そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。
なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。
私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。
しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。
それなのに、私の扱いだけはまったく違う。
どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。
当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。
乙女ゲームに悪役転生な無自覚チートの異世界譚
水魔沙希
ファンタジー
モブに徹していた少年がなくなり、転生したら乙女ゲームの悪役になっていた。しかも、王族に生まれながらも、1歳の頃に誘拐され、王族に恨みを持つ少年に転生してしまったのだ!
そんな運命なんてクソくらえだ!前世ではモブに徹していたんだから、この悪役かなりの高いスペックを持っているから、それを活用して、なんとか生き残って、前世ではできなかった事をやってやるんだ!!
最近よくある乙女ゲームの悪役転生ものの話です。
だんだんチート(無自覚)になっていく主人公の冒険譚です(予定)です。
チートの成長率ってよく分からないです。
初めての投稿で、駄文ですが、どうぞよろしくお願いいたします。
会話文が多いので、本当に状況がうまく伝えられずにすみません!!
あ、ちなみにこんな乙女ゲームないよ!!という感想はご遠慮ください。
あと、戦いの部分は得意ではございません。ご了承ください。
乙女ゲームの世界へ転生!ヒロインの私は当然王子様に決めた!!で?その王子様は何処???
ラララキヲ
ファンタジー
乙女ゲームの世界のヒロインに転生していると気付いた『リザリア』。
前世を思い出したその日から、最推しの王子と結ばれるべく頑張った。乙女ゲームの舞台である学園に入学し、さぁ大好きな王子様と遂に出会いを果たす……っ!となった時、その相手の王子様が居ない?!?
その王子も実は…………
さぁリザリアは困った!!
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇【恋愛】もあるよ!
◇なろうにも上げる予定です。
転生ヒロインは乙女ゲームを始めなかった。
よもぎ
ファンタジー
転生ヒロインがマトモな感性してる世界と、シナリオの強制力がある世界を混ぜたらどうなるの?という疑問への自分なりのアンサーです。転生ヒロインに近い視点でお話が進みます。激しい山場はございません。
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる