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番外編 なくなってしまった未来①

召使い

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「あなたのお姉様、すごく優秀だったんでしょ?」
「病気になる前はね」
 リサは少しだけ疲れた様子だった。あまり早く家に帰りたくない。リサの家は人が少なくて、干渉されることもなくて羨ましく感じることもある。私が一般人にそんな感情を抱くなんて、おかしな話なんだけど。
「どうしてあんなに眠そうだったのかしら?」
「魔法を使うと、少しだけ眠くなるからそれじゃないかな?」
「少し、って感じじゃなかったけどね」
 どうして私を膝に乗せるんだろう。久しぶりに馬車で移動して疲れてしまった。ベアトリスが事故を起こさなければ、今頃鉄道事業は成功して、馬車なんて必要なくなっていたんだろうか。
 ふかふかの、花柄のベッド。私もなんだか眠気に襲われる。優しく髪を撫でる手があたたかい。彼女の長く、美しい金髪が頬を撫でる。
「痛い、ねぇなに、はなして……!」
 首筋に刺すような痛みが走った。ベッドに倒れ込んで、上からリサの完璧な顔面が覗き込んでいるのが見える。手首を強く掴まれていて動けない。爪も立てられて、暴れれば暴れるほど食い込む気がして、あまり動かせない。
「あなたの一族は、血を飲んで魔法の力を得てるんでしょ?」
 唇の端に血がついていた、私の。首に生ぬるい液体が伝う感触がする。絶対に違う。脳みそが現実を受け入れるのを拒否していて、混乱して真っ白になる。
 リサはノアのようなおかしな趣味もないし、アルチューロのようなロリコンでもない、はずだ。だってこんなに美しくて、凛としていて、私とともだちで。
「そんなの迷信だよ。たしかにうちの兄はちょっと性癖がおかしいから、屠殺場で豚の血を飲んだりしてるけど……普通はそんなことしない!」
 そういう根も葉もない噂が流れているのは知っていた。おそらく兄のノアの奇行のせいでそれが広まった。血を交換すれば魔法使いになれるとか、私たちブラッドリー家は血を飲んでその力を強固なものにしているとか、それに尾ひれのついた噂話とか。私の身体を抑えていた力が抜けるのがわかった。
「ごめんね、私あなたの欲しいものあげられないの」
 涙が出た。リサにとって私は価値のないちっぽけな人間なんだと痛感させられて。彼女が小さく舌打ちをするのが聞こえて、さらにズンと気持ちが沈んだ。
「で、でも全部言うこときく。リサの欲しいもの、全部あげるから」
 彼女に縋りつくことしかできない。たった今私は、こんな一般人の、成金ジジイの非嫡出子の召使いになる。その宣言をした。
「死んで欲しい人がいるの」
 リサのブルーの目が私を見て、それだけで安心する。もう私は、彼女なしでは生きていけない。
「……誰、それ」
「あなたが護衛した、グレイ公」
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