26 / 53
番外編 なくなってしまった未来①
ホモは犯罪者!
しおりを挟む
「おかえり」
「ただいま!」
防腐剤の匂いが漂った。道中ずっと、変わり者の叔父が語っていた死体の防腐処理について思い出す。うぇ。
地下室へ降りると、死体安置所の隣の冷たい部屋で何人もの子供が遊んでいた。ここは教会でも、孤児院でもないんだけど。その中に混じって、兄のノアが静かに聖書を読んでいた。信じられないことに、アルチューロ叔父さんと親しげにハグをして、軽くキスまでした。
「最低! ショタコン! 性犯罪者!」
思わず大きな声が出る。周りの子供たちが遊びを中断して、不思議そうな表情でこちらを見るのがわかった。
「なんなのアンタたち」
「お前だってクラスメイトとキスしまくってるくせに」
――なんでそれを。
せっかく声を落として話そうと心がけていたのに途端に忘れてしまう。
「監視魔法をかけたら絶交って前言ったよね?」
「あれは十年も前の話だ」
「だいたい、私たちはそんな汚らわしい関係じゃないから!」
本当に最悪。デリカシーなんてあったものじゃない。やっぱり血を飲むような趣味があると、こうも頭がおかしくなってしまうのかしら。アルチューロ叔父さんがヘラヘラ笑いながら仲裁に入った。
「落ち着けって、俺は美女にしか興味ないから」
「信じらんない! お父様に手紙を書くから!」
「だからそんなんじゃないって」
本当はこんな風に揉めたくない。ゆっくり深呼吸をした。
「子供に興奮するなんてどうしようもない変態だって、お兄様言ってたよね? それに、同性愛は犯罪だよ!」
私の言葉にノアは呆れたように息を吐いて、大袈裟な音を立てて分厚い聖書を閉じた。私の、暗闇でも目立つ派手なグリーンの服を一瞥してすぐに目を逸らす。
「俺はとっくに二十歳を超えてる。それにホモじゃない」
「二人して屠殺の仕事に回されろゴミカス人間共」
冷静に、諭すように言われるともう嫌味を言うしかない。絶対にこいつらのほうが頭がおかしいのに。
「残念、俺はもう回されてる」
「血を飲む趣味はやめなって前も言ったよね? 気持ち悪い」
初めて表情を曇らせた。ノアのこの異常な趣味は幼い頃からのもので、本来であれば長男の彼はこんな扱いを受けることはない。何人もの医師が治療にあたったが、とうとう匙を投げられた。それで、私が生まれる随分前に成長を止められ、私のすぐ上の兄ということにされたのだ。
「最近は死んだ人間や、動物の血しか飲んでないし」
ボソボソと言い訳を並べるが、そんなの知るもんか。私のことが大好きなのか、心配症なのか、ずっと監視してきてうざい。
「そんなんだからずっとこんな仕事をさせられてるのよ。気持ち悪い性犯罪者!」
「だからホモじゃないってば」
アルチューロおじさんがまた口を挟んだ。人の気も知らないで、トランプのカードをシャッフルさせて遊んでいる。
「この子たち何? 立派な誘拐犯じゃん!」
楽しそうに遊んでいる。探されもしない、末端の子供たち。見た目だけで言えば、私やノアとそう歳は変わらない。ノアは三十路のおじさんで、私は十八歳なんだけど。
「スリをしたりして生きて行かずにすむように勉強を教えてるんだ」
アルチューロ叔父さんはそう答えて、なぜかトランプマジックを、魔法を使わずに披露し始めた。子供たちは興味深そうに、彼の両手を目を輝かせて魅入っている。ノアはなぜか顔を赤くして下を向いた。それで最近勉強してるって言ってたのね。私にも勉強しろだとか言ってたっけ。
「そりゃあ良い心がけですね、って言うとでも思った?」
「なぁメアリー、お父様はお忙しいんだ。手紙を書いたって読みやしないよ」
ノアはまた聖書を開いて下を向いてしまった。陰鬱そうな雰囲気が漂う。爪の間に赤黒い血がこびりついているのが気になった。
「そうだ、そんなことよりメアリー、護衛の仕事を任されたって? すごいじゃないか!」
アルチューロ叔父さんは反対に、とても陽気に声をかけてきた。マジックが成功したのか、子供たちが歓声をあげる。くだらない。
「アンタたちと違ってまともに働いてるから、私は」
「俺だってベアトリスよりはマシさ」
ノアがボソリと呟いた。目だけをこちらに向け、なんとも不気味な雰囲気が漂う。昔からずっと、ノアとベアトリスは仲が良いとは言えない関係だった。
「どうしてそんなに姉さんを嫌うの?」
「お前はあいつの本性を知らないだけだよ」
「ただいま!」
防腐剤の匂いが漂った。道中ずっと、変わり者の叔父が語っていた死体の防腐処理について思い出す。うぇ。
地下室へ降りると、死体安置所の隣の冷たい部屋で何人もの子供が遊んでいた。ここは教会でも、孤児院でもないんだけど。その中に混じって、兄のノアが静かに聖書を読んでいた。信じられないことに、アルチューロ叔父さんと親しげにハグをして、軽くキスまでした。
「最低! ショタコン! 性犯罪者!」
思わず大きな声が出る。周りの子供たちが遊びを中断して、不思議そうな表情でこちらを見るのがわかった。
「なんなのアンタたち」
「お前だってクラスメイトとキスしまくってるくせに」
――なんでそれを。
せっかく声を落として話そうと心がけていたのに途端に忘れてしまう。
「監視魔法をかけたら絶交って前言ったよね?」
「あれは十年も前の話だ」
「だいたい、私たちはそんな汚らわしい関係じゃないから!」
本当に最悪。デリカシーなんてあったものじゃない。やっぱり血を飲むような趣味があると、こうも頭がおかしくなってしまうのかしら。アルチューロ叔父さんがヘラヘラ笑いながら仲裁に入った。
「落ち着けって、俺は美女にしか興味ないから」
「信じらんない! お父様に手紙を書くから!」
「だからそんなんじゃないって」
本当はこんな風に揉めたくない。ゆっくり深呼吸をした。
「子供に興奮するなんてどうしようもない変態だって、お兄様言ってたよね? それに、同性愛は犯罪だよ!」
私の言葉にノアは呆れたように息を吐いて、大袈裟な音を立てて分厚い聖書を閉じた。私の、暗闇でも目立つ派手なグリーンの服を一瞥してすぐに目を逸らす。
「俺はとっくに二十歳を超えてる。それにホモじゃない」
「二人して屠殺の仕事に回されろゴミカス人間共」
冷静に、諭すように言われるともう嫌味を言うしかない。絶対にこいつらのほうが頭がおかしいのに。
「残念、俺はもう回されてる」
「血を飲む趣味はやめなって前も言ったよね? 気持ち悪い」
初めて表情を曇らせた。ノアのこの異常な趣味は幼い頃からのもので、本来であれば長男の彼はこんな扱いを受けることはない。何人もの医師が治療にあたったが、とうとう匙を投げられた。それで、私が生まれる随分前に成長を止められ、私のすぐ上の兄ということにされたのだ。
「最近は死んだ人間や、動物の血しか飲んでないし」
ボソボソと言い訳を並べるが、そんなの知るもんか。私のことが大好きなのか、心配症なのか、ずっと監視してきてうざい。
「そんなんだからずっとこんな仕事をさせられてるのよ。気持ち悪い性犯罪者!」
「だからホモじゃないってば」
アルチューロおじさんがまた口を挟んだ。人の気も知らないで、トランプのカードをシャッフルさせて遊んでいる。
「この子たち何? 立派な誘拐犯じゃん!」
楽しそうに遊んでいる。探されもしない、末端の子供たち。見た目だけで言えば、私やノアとそう歳は変わらない。ノアは三十路のおじさんで、私は十八歳なんだけど。
「スリをしたりして生きて行かずにすむように勉強を教えてるんだ」
アルチューロ叔父さんはそう答えて、なぜかトランプマジックを、魔法を使わずに披露し始めた。子供たちは興味深そうに、彼の両手を目を輝かせて魅入っている。ノアはなぜか顔を赤くして下を向いた。それで最近勉強してるって言ってたのね。私にも勉強しろだとか言ってたっけ。
「そりゃあ良い心がけですね、って言うとでも思った?」
「なぁメアリー、お父様はお忙しいんだ。手紙を書いたって読みやしないよ」
ノアはまた聖書を開いて下を向いてしまった。陰鬱そうな雰囲気が漂う。爪の間に赤黒い血がこびりついているのが気になった。
「そうだ、そんなことよりメアリー、護衛の仕事を任されたって? すごいじゃないか!」
アルチューロ叔父さんは反対に、とても陽気に声をかけてきた。マジックが成功したのか、子供たちが歓声をあげる。くだらない。
「アンタたちと違ってまともに働いてるから、私は」
「俺だってベアトリスよりはマシさ」
ノアがボソリと呟いた。目だけをこちらに向け、なんとも不気味な雰囲気が漂う。昔からずっと、ノアとベアトリスは仲が良いとは言えない関係だった。
「どうしてそんなに姉さんを嫌うの?」
「お前はあいつの本性を知らないだけだよ」
3
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約者はお譲りします!転生悪役令嬢は世界を救いたい!
白雨 音
恋愛
公爵令嬢アラベラは、階段から転落した際、前世を思い出し、
この世界が、前世で好きだった乙女ゲームの世界に似ている事に気付いた。
自分に与えられた役は《悪役令嬢》、このままでは破滅だが、避ける事は出来ない。
ゲームのヒロインは、聖女となり世界を救う《予言》をするのだが、
それは、白竜への生贄として《アラベラ》を捧げる事だった___
「この世界を救う為、悪役令嬢に徹するわ!」と決めたアラベラは、
トゥルーエンドを目指し、ゲーム通りに進めようと、日々奮闘!
そんな彼女を見つめるのは…?
異世界転生:恋愛 (※婚約者の王子とは結ばれません) 《完結しました》
お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆
乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか〜
ひろのひまり
恋愛
生まれ変わったらそこは異世界だった。
沢山の魔力に助けられ生まれてこれた主人公リリィ。彼女がこれから生きる世界は所謂乙女ゲームと呼ばれるファンタジーな世界である。
だが、彼女はそんな情報を知るよしもなく、ただ普通に過ごしているだけだった。が、何故か無関係なはずなのに乙女ゲーム関係者達、攻略対象者、悪役令嬢等を無自覚に誑かせて関わってしまうというお話です。
モブなのに魔法チート。
転生者なのにモブのド素人。
ゲームの始まりまでに時間がかかると思います。
異世界転生書いてみたくて書いてみました。
投稿はゆっくりになると思います。
本当のタイトルは
乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙女ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか?〜
文字数オーバーで少しだけ変えています。
なろう様、ツギクル様にも掲載しています。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
転生したら乙ゲーのモブでした
おかる
恋愛
主人公の転生先は何の因果か前世で妹が嵌っていた乙女ゲームの世界のモブ。
登場人物たちと距離をとりつつ学園生活を送っていたけど気づけばヒロインの残念な場面を見てしまったりとなんだかんだと物語に巻き込まれてしまう。
主人公が普通の生活を取り戻すために奮闘する物語です
本作はなろう様でも公開しています
悪役令嬢なのに下町にいます ~王子が婚約解消してくれません~
ミズメ
恋愛
【2023.5.31書籍発売】
転生先は、乙女ゲームの悪役令嬢でした——。
侯爵令嬢のベラトリクスは、わがまま放題、傍若無人な少女だった。
婚約者である第1王子が他の令嬢と親しげにしていることに激高して暴れた所、割った花瓶で足を滑らせて頭を打ち、意識を失ってしまった。
目を覚ましたベラトリクスの中には前世の記憶が混在していて--。
卒業パーティーでの婚約破棄&王都追放&実家の取り潰しという定番3点セットを回避するため、社交界から逃げた悪役令嬢は、王都の下町で、メンチカツに出会ったのだった。
○『モブなのに巻き込まれています』のスピンオフ作品ですが、単独でも読んでいただけます。
○転生悪役令嬢が婚約解消と断罪回避のために奮闘?しながら、下町食堂の美味しいものに夢中になったり、逆に婚約者に興味を持たれたりしてしまうお話。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい
斯波
ファンタジー
ブラック企業を辞退した私が卒業後に手に入れたのは無職の称号だった。不服そうな親の目から逃れるべく、喫茶店でパート情報を探そうとしたが暴走トラックに轢かれて人生を終えた――かと思ったら村人達に恐れられ、軟禁されている10歳の少女に転生していた。どうやら少女の強大すぎる魔法は村人達の恐怖の対象となったらしい。村人の気持ちも分からなくはないが、二度目の人生を小屋での軟禁生活で終わらせるつもりは毛頭ないので、逃げることにした。だが私には強すぎるステータスと『ポイント交換システム』がある!拠点をテントに決め、日々魔物を狩りながら自由気ままな冒険者を続けてたのだが……。
※1.恋愛要素を含みますが、出てくるのが遅いのでご注意ください。
※2.『悪役令嬢に転生したので断罪エンドまでぐーたら過ごしたい 王子がスパルタとか聞いてないんですけど!?』と同じ世界観・時間軸のお話ですが、こちらだけでもお楽しみいただけます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる