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番外編 なくなってしまった未来①

おもしれー男と退屈な女

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「リサの親、金の亡者なんだからあいつ狙えば?
は?」
 放課後にリサの家に入り浸るのは、もう恒例行事だった。一般人からしたら、暖炉に火をおこすのはたいへん贅沢なことらしい。私が指をパチンと鳴らせば、魔法の青く温かい炎が部屋を飛び交った。
「あいつって、グレイ公? 私は別にそんな気ないけど」
 いつになく距離が近い。部屋が寒いわけではないのに。黒いワンピースとは対象的な、彼女の白い肌が触れる。手をぎゅっと繋いだまま、私の髪を撫でた。
「たしか、視察にきてたんだよね? どんな人だったの?」
「おもしれー男」
 成金の親の考えることなんて、どれだけもっと金を搾り取れるかと、娘を爵位持ちと結婚させることくらいでしょ。
「うーん、でも――」
「アンタの意思なんて関係ない、リサの人生なんて知れてる。金持ちと結婚して、紅茶を飲みながらヒソヒソ話をして、幸せな家庭を築く。いいじゃん、私なんかよりよっぽどマトモなレールだよ」
「そんな話、今してない」
 その声は怒ってるように思えた。それから、いつものようにキスをした。私のことを、子供だと思っているのかそうじゃないのかわからない。
「ねぇわかる? ドキドキしてる」
 繋いだ手をそのまま、胸に当ててくる。柔らかくて、ふわふわ、もちもちしていた。動揺して、ドっと汗が吹き出した。自分の心臓の音がうるさくて、リサの鼓動なんてわかるはずがない。
「私あれから考えたんだけど」
「なに?」
 耳元で囁かれると、もうなにも考えられなくなる。難しいことは考えなくても構わないんじゃないか。ラテン語の宿題と同じように、財産や爵位や、家柄なんてどこかに放置してしまってもいいんじゃないかって、そんな考えに支配される。
「メアリーのお姉さんに会ってみたいの」
 優しく私の名前を呼んだ。彼女の言うことなら、なんでも聞いてあげたい、そう思わせる。
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