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3章 クロエ・バクスターの秘密

嘘と夜明け

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「お兄様!」
「大丈夫か?」
 ドタドタ、慌ただしい足音が聞こえて振り返る。お兄様は私を素通りして倒れているクロエの元へ駆け寄っていった。え、やっぱり私そっちに転生したかったわ。人生無理。
「クロエが幽霊に身体を乗っ取られてしまったみたいで」
「そうか……」
 ペラペラ、嘘が口から溢れた。テツオは我に返ったのか、廊下の隅で体育座りをしている。クロエはぐったりしていたが、一応息はしているからそんなに心配することはないだろう。
 私は、クロエにかかりきりのお兄様の肩に手を置いた。見上げてきた、その蒼い両眼を覗き込む。パッと見ただけじゃわからないけれど、これ本当に右目が見えてないのかな。てか、クロエはよくそれに気づいた。や、やっぱり付き合ってるのか!?
「それよりやっぱり目、おかしかったの?」
「ゾクゾクするだろ」
 あくまで私は冷静に訊ねたのに、お兄様はニヤリと口角を上げた。見えていないはずの、向かって左側の瞳にも光が宿る。心なしか、息が荒いようにも思えた。あ~、でも顔が良いから許せるかも。
「治してあげる」
「あ、うん。ありがとう」
 あんまり気が進まないって感じなのなんで。やっぱりドMなのかな。私の理想の存在が、イメージがガラガラ音を立てて崩れていく。
 手を翳して、得意の治癒魔法を施すと、ほのかに青い光が放たれる。魔法が実行されたってことは、やっぱり見えてなかったんだ。お兄様のドM疑惑と、クロエとのラブラブルートが確定してしまい、仄暗い気分に苛まれた。反対に、夜はみるみる明けていき、窓からは時間相応の夕陽が差し込んだ。
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