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2章 メフィストフェレス
憂鬱な朝食
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「モーディ氏!!」
幸運なことに、テツオは箸がないだとか、そういう細かいことで騒ぎ立てたりはしなかった。私だったらギャン泣きしてたわ、っていうかした。
よかったー、転生で。なんせバブっておぎゃって三点倒立してたって、周りの人間にチヤホヤ、ヨシヨシしてもらえる。あ~、また赤ちゃんやりたい。自分、まだ赤ちゃんやれます! やらせてください!!
「話は聞いてるよ。よろしくね、テツオ」
お兄様はにっこり笑った。見ず知らずの、挙動不審なら外国人にも神対応とか、やっぱ推せるわ。好き。
せっかく、家族揃っての朝食の席だというのに、アーティは不機嫌そうにテーブルに肘をついた。誰かコイツに“マナー”ってやつを教えてやってくれ。太陽の光が出ている時間帯は、いつもたいていこの調子だ。
食事はほとんど終わっていて、私は水の入ったグラスを取った。二日酔いのせいで頭がぐらぐら揺れている。気分が悪いせいで食べ残したパサパサの乾いたパンや、べちゃべちゃのスクランブルエッグは、テツオが物凄い勢いでかっさらっていった。「推しの食べ残し、神」、とかなんとか言って。本当に意味がわからない。
「それで?」
はしゃぐテツオを華麗にスルーして、モードお兄様はアーティに冷ややかな視線を送った。怒ってるよね、やっぱり。イケメンだから、より迫力がある。あ~、このスチル原画展で展示しないかな? この構図だいぶ好みだから缶バ積んで痛バ作るのもありかもしれない――って、違くて!
「勝手におじい様の書斎に入り込み、禁忌の魔導書を使って召喚魔法を使った、ってこと?」
「もっとマシなやつを召喚する予定だったんだ」
アーティがテーブルをドン、と強く叩いた。唇を尖らせて、床につかない足をいつものようにぶらぶら揺らしている。
「はぁ」
お兄様の青い瞳が、アーティと私を交互に移した。視線! 視線頂きました~。これ、確定ファンサでは?
頭を抱えてため息をつくお兄様の前では、テツオのようにリアクションするわけにはいかなかった。チラりと、悪びれる様子のないアーティを見てグラスを置く。
「わ、私は止めたんだけど……」
「はぁ? 嬉々として見てた、の間違いだろ?」
「そんなはずないでしょ!」
膝の上で拳を作って強く握った。殴らなかっただけでも感謝して欲しい。昨日みたいに、魔法の力で窓ガラスを割る、なんてお茶目も控えてやった。
お兄様が静かに席を立った。アーティに、思いつく限りの罵詈雑言をぶつけてやろうと予定していたけれど、お兄様の疲れた表情を見てやめた。外野からあれこれ言われているのは知っていた。
なんせ、“あの”ブラッドリー家なのに魔法が使えない。それなのに、爵位と共に家督を継ごうとしているんだから。アーティと同じように、お兄様のことを「無能」とか「一般人」と悪口を叩く連中は社交界にはたくさん存在していることを、私は知っている。
「今日はお客さんがくるから、そう次から次に問題を起こすなよ」
昨日はクロエの相手をしてやったのだろうか。憔悴した、覚束ない足取りでドアのほうへ向かう。たくさんお仕事があって大変そう。アーティがいつもの調子で、ふざけて青白いオーブを飛ばした。
「お客さんさんって?」
「すぐわかるさ」
肩をすくめて短く答えた。無機質な音を立てて扉が閉まる。テツオが大袈裟な動作で紅茶のカップを置き、食器がぶつかる小さな音が鳴る。んー、お客さん? そんなイベントあったっけ?
幸運なことに、テツオは箸がないだとか、そういう細かいことで騒ぎ立てたりはしなかった。私だったらギャン泣きしてたわ、っていうかした。
よかったー、転生で。なんせバブっておぎゃって三点倒立してたって、周りの人間にチヤホヤ、ヨシヨシしてもらえる。あ~、また赤ちゃんやりたい。自分、まだ赤ちゃんやれます! やらせてください!!
「話は聞いてるよ。よろしくね、テツオ」
お兄様はにっこり笑った。見ず知らずの、挙動不審なら外国人にも神対応とか、やっぱ推せるわ。好き。
せっかく、家族揃っての朝食の席だというのに、アーティは不機嫌そうにテーブルに肘をついた。誰かコイツに“マナー”ってやつを教えてやってくれ。太陽の光が出ている時間帯は、いつもたいていこの調子だ。
食事はほとんど終わっていて、私は水の入ったグラスを取った。二日酔いのせいで頭がぐらぐら揺れている。気分が悪いせいで食べ残したパサパサの乾いたパンや、べちゃべちゃのスクランブルエッグは、テツオが物凄い勢いでかっさらっていった。「推しの食べ残し、神」、とかなんとか言って。本当に意味がわからない。
「それで?」
はしゃぐテツオを華麗にスルーして、モードお兄様はアーティに冷ややかな視線を送った。怒ってるよね、やっぱり。イケメンだから、より迫力がある。あ~、このスチル原画展で展示しないかな? この構図だいぶ好みだから缶バ積んで痛バ作るのもありかもしれない――って、違くて!
「勝手におじい様の書斎に入り込み、禁忌の魔導書を使って召喚魔法を使った、ってこと?」
「もっとマシなやつを召喚する予定だったんだ」
アーティがテーブルをドン、と強く叩いた。唇を尖らせて、床につかない足をいつものようにぶらぶら揺らしている。
「はぁ」
お兄様の青い瞳が、アーティと私を交互に移した。視線! 視線頂きました~。これ、確定ファンサでは?
頭を抱えてため息をつくお兄様の前では、テツオのようにリアクションするわけにはいかなかった。チラりと、悪びれる様子のないアーティを見てグラスを置く。
「わ、私は止めたんだけど……」
「はぁ? 嬉々として見てた、の間違いだろ?」
「そんなはずないでしょ!」
膝の上で拳を作って強く握った。殴らなかっただけでも感謝して欲しい。昨日みたいに、魔法の力で窓ガラスを割る、なんてお茶目も控えてやった。
お兄様が静かに席を立った。アーティに、思いつく限りの罵詈雑言をぶつけてやろうと予定していたけれど、お兄様の疲れた表情を見てやめた。外野からあれこれ言われているのは知っていた。
なんせ、“あの”ブラッドリー家なのに魔法が使えない。それなのに、爵位と共に家督を継ごうとしているんだから。アーティと同じように、お兄様のことを「無能」とか「一般人」と悪口を叩く連中は社交界にはたくさん存在していることを、私は知っている。
「今日はお客さんがくるから、そう次から次に問題を起こすなよ」
昨日はクロエの相手をしてやったのだろうか。憔悴した、覚束ない足取りでドアのほうへ向かう。たくさんお仕事があって大変そう。アーティがいつもの調子で、ふざけて青白いオーブを飛ばした。
「お客さんさんって?」
「すぐわかるさ」
肩をすくめて短く答えた。無機質な音を立てて扉が閉まる。テツオが大袈裟な動作で紅茶のカップを置き、食器がぶつかる小さな音が鳴る。んー、お客さん? そんなイベントあったっけ?
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