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1章 幽霊屋敷の謎
オタクの鑑
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レンフィールド症候群――きっとそうだ。私のオタク考察魂がついに回答を導き出した。ブログで発表したら、それなりにバズるかも! ポリフィリン症考察二次創作だって、支部でそれなりに評価されてたし!
「まぁいいや、どうせ殺すんだし」
アーティの冷酷な声に、本能が警鐘をガンガン鳴らした。彼が繰り出そうとしている、ありとあらゆる攻撃魔法を防ぐことは私にはできない。魔法なんて、いちいち使っている暇はない。拳を握って、アーティの顔面を思い切りぶん殴った。あぁ、手が痛い。きっとそれなりにダメージを加えられたはず。
「やめなよ!!」
床に広がったモードの血の上に、アーティの鼻血が重なった。口の中も怪我したようで、口から唾液と一緒にだらりと血が垂れた。
「こいつは出来損ないだぞ!」
「お兄様に魔法は通じない。普通じゃないってわかってるんでしょ? ……だからそんなものも用意してる」
現実なんてクソ。だから私は妄想の世界に生きる。なのに、なのに。妄想が現実になったら、それは地獄でしかない。
アーティはポケットからナイフを取り出した。私に見せつけるようにして床に落とす。血だらけのカーペットの上に、静かに落下していく。鼻や、口の周りを血でベタベタに汚したアーティが、ニヤッと口角を上げた。
「あれ、やっぱバレてた?」
「……こんなことするのやめようよ」
お兄様はたしかに魔法が使えない。だけどそれは、全ての魔法を無効化するからだ。これはオタクによる考察などではなく、十六年間一緒に暮らしてきたからわかることだ。
「なんでそこまでアイツに固執するわけ? 俺だって一応、“お兄様”じゃん?」
アーティは青白い顔を、さらに蒼白にさせていた。体調が悪そうで、口を怪我した、という理由ではあまりにも大量の血を吐いた。
「オタクは推しに、いつまでも健やかでいて欲しいものでしょ」
「オタ……なに?」
やべ、つい本音が。アーティの顔がぐちゃぐちゃに歪む。してやられた。彼の固有魔法――幻覚だということはすぐにわかった。
「メフィスト!!」
モードお兄様の声が脳内に響く。無効化の能力が私にも影響したのかもしれない。いつの間にかアーティはペンを握ってお兄様に襲いかかっていた。血なんて吐いてない。いけない! このままじゃ原作通り、お兄様が殺されちゃう!!
とにかく必死だった。集中力を行使して、人差し指に魔力を集めた。アーティに標準を定めて、しっかりと攻撃魔法を繰り出す。パシャ、と水音を立てて血だらけの湯船に後頭部から消えていった。
すぐに水面から顔を出して、私をギロリと睨みつけた。ぽたぽた頭からお湯を滴らせ、服はびしょびしょで、全然怖くない。
「アンタ本当に最低!」
「そんなに怒るなよ。冗談だろ冗談」
嘘ばっかり言いやがって。アーティが落とした、床のナイフを蹴飛ばしてモードお兄様に駆け寄った。ナイフに気を取られて、いつ幻覚の固有魔法を行使したのか全くわからなかった。
「お兄様、大丈夫?」
「あ……うん」
左目にペンが刺さっていた。うわぁ、痛そう。残りの魔力を全部注力させて治癒魔法を唱える。大丈夫、大丈夫。原作より酷い怪我じゃないし、死ぬことはないだろう。でも、視力は戻らないかも。えーん。
「大丈夫? 見える?」
目の前でひらひら、手を振ってみせた。ついでに、腕に刺さったままの針も抜いた。二の腕に巻きついていた、血流を止めている厄介な紐も解く。
「あ、ありがとう。メフィスト」
お兄様は脱力した身体とは反対に、目を大きく見開いて私の肩を掴んだ。はぁはぁ息が荒い。呼吸が苦しい、わけじゃないはずだ。なんで――。
「こういうプレイもたまにはアリかもな!」
あぁ神様。なんということでしょう。
私の推しが、ドMの男だった件について
「まぁいいや、どうせ殺すんだし」
アーティの冷酷な声に、本能が警鐘をガンガン鳴らした。彼が繰り出そうとしている、ありとあらゆる攻撃魔法を防ぐことは私にはできない。魔法なんて、いちいち使っている暇はない。拳を握って、アーティの顔面を思い切りぶん殴った。あぁ、手が痛い。きっとそれなりにダメージを加えられたはず。
「やめなよ!!」
床に広がったモードの血の上に、アーティの鼻血が重なった。口の中も怪我したようで、口から唾液と一緒にだらりと血が垂れた。
「こいつは出来損ないだぞ!」
「お兄様に魔法は通じない。普通じゃないってわかってるんでしょ? ……だからそんなものも用意してる」
現実なんてクソ。だから私は妄想の世界に生きる。なのに、なのに。妄想が現実になったら、それは地獄でしかない。
アーティはポケットからナイフを取り出した。私に見せつけるようにして床に落とす。血だらけのカーペットの上に、静かに落下していく。鼻や、口の周りを血でベタベタに汚したアーティが、ニヤッと口角を上げた。
「あれ、やっぱバレてた?」
「……こんなことするのやめようよ」
お兄様はたしかに魔法が使えない。だけどそれは、全ての魔法を無効化するからだ。これはオタクによる考察などではなく、十六年間一緒に暮らしてきたからわかることだ。
「なんでそこまでアイツに固執するわけ? 俺だって一応、“お兄様”じゃん?」
アーティは青白い顔を、さらに蒼白にさせていた。体調が悪そうで、口を怪我した、という理由ではあまりにも大量の血を吐いた。
「オタクは推しに、いつまでも健やかでいて欲しいものでしょ」
「オタ……なに?」
やべ、つい本音が。アーティの顔がぐちゃぐちゃに歪む。してやられた。彼の固有魔法――幻覚だということはすぐにわかった。
「メフィスト!!」
モードお兄様の声が脳内に響く。無効化の能力が私にも影響したのかもしれない。いつの間にかアーティはペンを握ってお兄様に襲いかかっていた。血なんて吐いてない。いけない! このままじゃ原作通り、お兄様が殺されちゃう!!
とにかく必死だった。集中力を行使して、人差し指に魔力を集めた。アーティに標準を定めて、しっかりと攻撃魔法を繰り出す。パシャ、と水音を立てて血だらけの湯船に後頭部から消えていった。
すぐに水面から顔を出して、私をギロリと睨みつけた。ぽたぽた頭からお湯を滴らせ、服はびしょびしょで、全然怖くない。
「アンタ本当に最低!」
「そんなに怒るなよ。冗談だろ冗談」
嘘ばっかり言いやがって。アーティが落とした、床のナイフを蹴飛ばしてモードお兄様に駆け寄った。ナイフに気を取られて、いつ幻覚の固有魔法を行使したのか全くわからなかった。
「お兄様、大丈夫?」
「あ……うん」
左目にペンが刺さっていた。うわぁ、痛そう。残りの魔力を全部注力させて治癒魔法を唱える。大丈夫、大丈夫。原作より酷い怪我じゃないし、死ぬことはないだろう。でも、視力は戻らないかも。えーん。
「大丈夫? 見える?」
目の前でひらひら、手を振ってみせた。ついでに、腕に刺さったままの針も抜いた。二の腕に巻きついていた、血流を止めている厄介な紐も解く。
「あ、ありがとう。メフィスト」
お兄様は脱力した身体とは反対に、目を大きく見開いて私の肩を掴んだ。はぁはぁ息が荒い。呼吸が苦しい、わけじゃないはずだ。なんで――。
「こういうプレイもたまにはアリかもな!」
あぁ神様。なんということでしょう。
私の推しが、ドMの男だった件について
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