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1章

15話 散歩と幼女

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「うーーん」 

ピクニックが終わってから一日たった。

領民からの案件もこず、相変わらずぐーたらしてる。

して、一つ思ったことがある。

「前任者皆逃げ出したとは言うけどさ、ぶっちゃけ言うほど危険か? ここ」

見た目とか雰囲気はお世辞にもいいとは言えないかもだが、逆にそれくらいだし。

俺も最初こそはこんな領地で大丈夫なのかと不安になったけど、数日住んだだけで慣れてきてるし。

なんなら重大案件とかも舞い込んでこなくて楽! 

王都にいた頃よりのんびり出来てる気もする。

自然に囲まれた土地だし、スローライフをしているようなものじゃね?

「いやいや、デスウルフとかグレートゴブリンとかワラワラやってきたじゃないですか」

「犬っころと弱っちぃゴブリンがどうしたんだ」

「ですから、普通の人間だったらデスウルフなんて見た瞬間卒倒しちゃいますよ!? こんな恐ろしい魔物が居るような場所で生活なんてできるか! と逃げ出すのは無理もありません。デスウルフ一回だけでもあれですが、グレートゴブリンもですよ。レン様が来てほんの数日で二回も重大事件が……」

「そうは言うがトメリル、俺からしたらあんな魔物全部ゴミみたいなもんだよ。あれ如きで領民を見捨てて逃げ出すような前任者、弱すぎないか?」

「ですから~!! 普通の! 人間は! 倒せません!! Sランク冒険者を連れてきてやっとです! ……なんで私が前任者を庇う形になるんですか! 」

「勝手に庇ってるだけじゃ……」

ちょっとの鍛錬であんくらい誰でも倒せると思うんだけどな。

「てかトメリルでも倒せると思うぞ? 」

何を言ってるんだこいつ、という目で見てくる。

「ほら、ピクニックした時に教えたアレ、俺がやって見せたようにグレートゴブリンくらいなら余裕だし、犬っころ……デスウルフも簡単だぞ」

「レン様? 基準をレン様と同等にしないでくなさい」

リーナが言うと、トメリルも「そうですよ! 」と講義してきた。

「最初はFランクの魔物から試すものですよ」

「リーナよ、そうは言うがここにFランクなんて超低レベルな魔物は存在するのか? 」

「忘れてました」

「昨日の今日だし、今日くらいはちゃんと仕事をしようと思ったんだが……ってなにそんなに驚いた顔してんの」

「てっきりお前らに教えるので疲れたから今日は休むとでも言うもんだと思ってました」

「ばっか、あんくらいで疲れねーよ。それに……んや、なんでもね」

あんだけ昨日褒められてるから、サボるにサボれないというか。そう言おうとしたが、それを言うのはなんか違うな。

「ちょっくら領民たちの様子でも見てくるわ」

昨日のリーナの言葉を思い出して、少し照れくさくなった俺はこの場を逃げるようにして出ていった。


手を頭の後ろにやって、ぷらぷら歩いていると、俺を見つけた領民の一人が走ってやってくる。

「レン様や、どうされましたかな」

「んー、散歩? お前らの様子も見たいしな」

「そうでしたか! でしたらゆっくりと見て回ってくださいな」

「あっと、その前にばぁちゃんなんか困ってることとかない? 大丈夫? 」

「困ってることねぇ……あぁそうだ、ナナンちゃんが良く外で遊びたがるんだけどねぇ、領民全員心配してるのよ。目を離した隙に森とかに入り込んじゃうんじゃないかって」

ナナンちゃんといえばあの幼女か。

子供ってのは一瞬でも大人が目を離した隙にどっかいくからな。それが王都でも不安になるが、ここは更に不安になるだろう。

しかし、かといって大人がずっと監視してると子供はそれを分かるし、思いっきり遊べないってもんだ。

「レン様はよく子供のことがわかっておるのじゃのう。身近に子供でも居たのですか? 」

「子供ってよりは大人なんだが、見た目はナナンちゃんみたいに幼い知り合いが居ましてね。年齢は……」

1000歳を超えている、と言おうとした瞬間、背中がゾクリとした。……今の感覚……あの、のじゃロリ、まさか視てないよな……?

「年齢はまぁあれなんですが、子供みたいに好奇心旺盛で、俺が目を離した隙にどっか消えてるような奴と過ごしてた時期があったんで」

魔界で、なんて言えないが。言う必要も無いだろう。

「ほほほ、それはそれは。わしゃ仕事に戻りますゆえ、レン様も散歩、楽しんでくだされ」

「ばぁちゃん、仕事は休憩しながらやるんだぞ~」

さて、ナナンちゃんでも探すかね。
他の領民たちと立ち話を混ぜながら、家に行く。

ドアをノックすると、女性が出てきた。

「はいはい、なんの御用……領主様!? 」

「急に断りもなくやってきてわりーな。あんたはナナンちゃんのお母さん? で合ってる?ちょっとナナンちゃんに用があって来たんだけど」

「は、はい。ナナンの母ですが……緑酒様が一体なんの御用で我が家に……ハッ! 娘を貰いに!? 」

「まて、なんでそうなった!? 」

「使いの者を出す訳でも無く、わざわざ向かわれて、娘に用がある……」

この人なんちゅー思考してんの!?

「俺ロリコンじゃないよ!? そう見えるの!? もしかして!? 」

「あら、違いましたか。もしロリも範疇であれば娘を領主様のハーレムに、とでも思ってましたが……」

「もっと娘を大切にしてくださいな」

「なになにー! ナナンがどうしたの!! あ、領主さん! こんにちは! 」

「おーナナンちゃん! こんにちは。元気? 」

「元気ー!! 領主さんはどーしておうちきたの? 」

母親の邪な考えを露も知らないナナンちゃんは、元気に挨拶をしてくれた。

「ナナンちゃんと遊ぶために? 」

「まぁ! 娘と遊ぶ……」

「おいこら、勘違いしてないだろうな」

「冗談ですよ~うふふ」

「冗談に聞こえないからほんとやめてくれ……リーナ辺りに聞かれたら俺が絞られるんだから」

「それだけでは済まないのではなくて? 」

「へ? 」

「領主様がロリコンだとの噂が周囲に広がったら大問題になるのでは? 」

「やめてくれよ!? な!? ほんとにやめてよ!! 」

「では今後ともご贔屓に。ナナン、領主様はナナンと遊びたいみたいだけど、遊びに行くかしら? 」

「行くー!! 」

「行ってらっしゃい。領主様も、ね」

何その意味深なウインクは。
ほらみろナナンちゃんがきょとんとしてるじゃないか。

俺はとんでもない奴に目をつけられてしまったなと、頭を抱えたくなるのを抑えながら、ナナンちゃんと手を繋いで家を後にした。


少し歩いて、立ち止まる。

「領主さんどーしたの? 」

「とてつもなく嫌な予感がするんだ」

「いやなよかん? 」

第三の目を【開眼】する。
後ろを振り向かなくても後ろが見れる便利な魔法。いや、これ魔法なのか? 自分でもよく分からなくなってきた。

第三の目とは言っても背中や服とかに目ん玉がギロリと生えてくる訳では無い。ただ目を開いた場所が頭の中で共有されるかんじ。

俺の嫌な予感は大的中。
ナナンちゃんのお母さんが窓からこちらをみてニッコリしていた。

傍から見れば普通の光景かもしれないが、あの人が恐ろしいことを知っている俺からすれば、何を考えているのかと思うと、たまったものでは無い。

はぐれたりしちゃ行けないから手を繋いでるのであって、貴方が考えているような事ではありませんよ、絶対に。

急に後ろを振り返り、にっこりしておいた。
そさくさと窓から消えるお母さん。

これでいいのだ。

【開眼】を解除して、向き直る。

「急に振り返ってどーしたの? いやなよかんのやつ? 」

「まぁそんなところ。そんなことより、遊ぼうぜ」

「やった! なにして遊ぶ! 」

「何したいかにもよるけど」

「じゃあ、お外行きたい! 」

まじか、この子。
そりゃ領民たち心配するわ。

「あのな? 外はまじで危ないんだぞ? 少なくとも子供は出たら危険なんだ」

「みんな同じこと言うけど、行ってみないとわかんないじゃんー」

「それはごもっともなんだけど……なんていうか、そのここってこの王国、いや世界的に見てもかなり危険な領地って言われてるんだ。外に出るのは……って聞き飽きただろ? こういうの」

「うん」

「連れて行ってやろか? 」

「え!いいの!? 」

先程までのしょんぼりとした顔から一転、嬉しそうな顔になるナナンちゃん。

子供一人くらいなら無能で出来損ないの俺でも守れるだろう。けど取り返しのつかない事態になってからでは遅い。

だからーーー 

「ちょっと一瞬びっくりするかもしれないから、目瞑っといて」

「わかった」

「てれぽ(テレポート)」

屋敷に戻ってきた。
ちょうどリーナが部屋にいた。

「おかえりなさいませ……その子はナナンちゃんですか。なんで連れ帰ってきたんですか? 」

「外に行ってみたいって言うから、外を散歩してくるんだけど、俺だけじゃ怖いからリーナも来てくんね? 」

「そんな小さい子供を外に連れ出すって本気ですか……」

「だって行きたがってるし。子供は変に制限をかけずにのびのびと遊ばせた方がいいんだぞー? 」

「レン様みたいになりますからね。まぁ、私もその考えには同感なのでお供いたしましょう。ですがナナンちゃん、一つ約束は出来ますか? 」

「なーに? 」

「これみたいにだらけた大人にはならないでくださいね。遊びも大切ですが、仕事や学びもしっかりしてください。それが今回の条件です」

ははー。やっぱリーナは賢いな。
ただ甘やかして遊びに行かせるのではなく、自分のするべきこともしろと。

「これって領主さんのこと? わかった! ちゃんとお勉強もする! 」

素直なのはいい事だけど、そこだけは認めて欲しくなかった……。

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