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三章『ギア編』
第318話 そして王国へ
しおりを挟むあれから数ヶ月。セラが帰ってこねぇ。
キラーキラーに返り討ちにされたか、あるいは勇者に滅ぼされたのかは定かじゃねぇが、仕事は失敗したようだ。
周りの雰囲気も暗いもんだ。
ポラニアはずっと面会謝絶でどんな状態なのかも分からねぇ。
キラーキラーも素材はあれど製造方法が分からねぇから作ることができねぇ。
完全に手詰まりだ。打つ手なしとはまさにこの事だな。
俺は引き出しに入れっぱなしにしていたポラニアの形見(死んでねぇが)を取り出す。
「ポラニアのやつ、こんなもの残していきやがって(死んでねぇ)」
これはポラニアの体内から出てきた設計図だ。
パロムが複製したあと原本を俺に渡してきた。
キラーキラーキラー、通称『神殺(ゴッドキラー)し』とやらの設計図だ。
これさえあれば作れるだろうと最初は思っていた。だが現実はそう甘くねぇ。
暗号化されている。ミミズが這ったような文字だ。解読には時間がかかるだろう。
ちぃ。勇者を殺すいい方法が思いつかねぇ。
このキラーの機体も退魔鉱石を使っているから小型のキラーキラーとして見ることもできるが、やはりキラーキラーと比べると数段劣る性能だ。
「ギア」
元気なく俺を呼ぶのはレイだ。まぁこのプレハブ小屋にいるのは俺とレイくらいなもんだ。
「なんだ?」
「もう諦めましょうよ」
「何を言ってやがる」
「だってポラニアの状態も分からないし、セラも帰ってこないんですよ?」
「それくらいで諦めてたまるかよ」
「それくらいって、ギアにとって彼らはそれくらいの存在だったんですか?」
「そんなわけねぇだろうが」
俺の声を聞いてレイが肩を揺らす。
「例え俺一人になろうとも俺は勇者を殺す」
「どうしてそこまで勇者殺しにこだわるんですか?」
「(現代に帰って)仕事の続きをするためだ」
「仕事の続き? それにはどうしても勇者殺しを達成しないといけないんですか?」
「ああ」
そうだ。ガラクタを纏った神に俺はこの世界に連れてこられた。
他にどうしろというんだ。俺には仕事以外に何もねぇんだからよ。
そんな葬式ムードのなか、プレハブ小屋のドアが開かれる。
ノックもしねぇとはどういう了見だ。
「ここがお主たちの玉座か? 頼りない壁で囲まれた狭い部屋だな」
現れたのは魔王だ。おいおい。勝手に出歩いてるんじゃねぇぞ。
俺たちが返事をするよりも先に魔王が話し始める。
「そのままでよい。たまにはこうして散歩するのもよいな。玉座の間にいたのでは運動不足になるからな」
「龍に運動不足っていう概念があるとはな」
「神龍ジョークだ」
「わかりにくいのは御免だな」
「そうか、まぁよい。要件を話そう」
魔王はそう言うと当たり前のように一番奥の席に座る(俺の席だ)。
そういや護衛がついてねぇな。魔王城の中とはいえ、魔王が動く時は九大天王が最低でも2人はついてくるはずだ。
「護衛のことか? 今はそれどころではないからな。他の仕事に回させておる」
「なんだ? 珍しく慌ただしいじゃねぇか?」
「わかったことがある」
「あん?」
「我の同胞(はらから)の所在がわかった」
「はらから?」
「兄弟のことだ」
「兄弟いたのか」
「我は四人兄弟だ」
「で、その兄弟の居場所がわかってなんだっていうんだ?」
「我は三男でな。上の兄たちの所在はおおよそ見当がつくのだが、四男の居場所が不明だったのだ」
「行方不明だったのか。それでそれがなんか意味あんのか?」
「ある。四男、いや、不滅龍、スーサイドドラゴンは現在王国にいる」
「王国って人間側のか?」
「それ以外にあるか。スーはそこにいる」
「おい。目的を話せ、話が見えてこねぇ」
「スーが人間側に加担する可能性がある」
「なに」
魔王の弟が敵になるだと?
「そのスーってのは強いのか?」
「強い」
「そりゃそうか。で、兄弟同士で殺し合うのか?」
「殺し合いにおいてスーほど秀でている者はおるまい。なにせ『死』そのものなのだからな」
「おいおい。どうすんだよ」
「だから迎えにいく」
「迎えにだと、王国に、どうやってだ?」
「この魔王城を飛ばしてだ」
「はぁ?」
「この魔王城は超巨大ゴーレムなのだ。旧魔王の遺産だが元四天王のパロムならば起動できるという」
「飛ぶのか? こんな馬鹿でけぇ国のような城が」
「飛ぶぞ。一万年前、大戦争時代の頃はよく飛んでいたのを見たことがある」
なるほど。この城ごとなら全軍を引き連れて王国にか殴り込みに行けるのか。
「ククク」
「どうした突然笑いおって」
「ついでに勇者を殺せるじゃねぇか」
「まだ勇者の所在は掴めておらぬぞ?」
「王国を攻められて黙ってるやつが勇者なはずがねぇ」
「ふ、そうだな。スーに会いにいくだけのつもりだったが、ついでに人類の希望も消しておくか」
「よし、そうこなくちゃな。どれくらいでここをたつんだ?」
「わからぬが、まだ時間はかかるぞ」
「なんだよ、なら魔王がここに来なくてもよかったじゃねぇか」
「そうだな」
「まさか久しぶりに家族に会えるからって舞いあがってんじゃねぇだろうな」
「そんなわけがあるまい。スーに会えるからと言ってそんなことは断じてないぞ」
「どうだかな。まぁ今回は時間があって助かるな」
「ほう。せっかちなお主にしては珍しいな」
「なにせこっちは虎の子をぶっ壊されてんだからよ。急ピッチで勇者を殺せるもんを見繕わねぇとならねぇ。忙しくなるぞ」
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