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二章『パテ編』

第89話 モノマ村23

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 透明龍(インビジブルドラゴン)は動く様子はない。目をしきりに動かして周囲全方向を警戒し続けている。

 そうか、こいつがこの村、魔物村(モンスタービレッジ)の主かというわけか。どうりで幻影大鷲(アパリションイーグル)が宿屋の主人に化けていたわけだ。きっとこいつが村長に化けていたに違いない。

「バーガー、こいつはSランクの怪物。気を抜かない」
「ああ、でもこいつ動かないぞ」

 それにいま、透明龍(インビジブルドラゴン)は囲まれている。後方にはアイナとジゼルと聖騎士数人、前方にはエリノアと俺。ただ、大きさが今まで見た魔物の中で、いや一番はスーだが······とにかくデカイ、この巨体ではそれほど早くは動けないだろう。

 と、俺が戦いの算段をつけていると、珍しくエリノアが弱気なことを口にした。

「······ミーが引きつけるから、その隙に退避するんだ」
「皆で叩けばいけるだろ」
「こいつはSランクの魔物、同ランクの小龍(ワイバーン)より強いよ」
「マジか、······ッ!!」
「バーガー!!」

 俺は吹き飛ん、だ? な、にが······起きた? あれ? あれれ?
······まてまて、まて、この感覚······は、魔法陣が傷つけられた時のそれ······。

 俺は動かない体の代わりに、目玉を動かして霞む視界を無理やり覚醒させて現状を確認する。ああ、バンズのヒールがあんな遠くに······具材もバラバラになっちまってる。ああ、そうだな、腹減ったな。この虚脱感と耐え難い空腹······。ああ、畜生。あいつ何しやがった······。

 俺は朦朧とする意識の中、ついさっきの出来事を思い出す。

 そうだ。奴の口の隙間から、超スピードで舌が飛び出してきて、この体では反応できなくて、モロに喰らったのか。

「バーガー様! うっ!!」

 アイナが俺の元に駆け寄ろうとして吹き飛ばされた。同時にエリノアが透明龍(インビジブルドラゴン)に斬り掛かる。俺の魂の動体視力で······反応はできなくても目で追うことはできる。なんて速い舌による刺突だ。いや、鞭のようにも使っている。エリノアは······流石だな、あれを捌いている。

 アイナは? なぜ起き上がらない。ジゼルがアイナに駆け寄り、両手を当てている。遠目だが、血が出ているように見える。······ぐ、意識が······。ふざけるな、俺はまだ死ぬわけには······。

 俺の意識は完全に途絶えた。

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